K2シロップを何故、投与する必要があるのか

助産師の思想によりK2シロップを投与されずにお子さんが亡くなったことへ、皆さんからお寄せいただいたご意見を件のお母さんもきっと読んでくださっているとおもいます。
ホメオパシーがお産の場にどれほどの浸透をしているのか、これは当ブログでもこれからも安全性を問うためにも追っていきます。
子どもを産むのは、死なすための行為ではないってことを、特に危険な行為をそうと自覚されずに行っている助産師の方には直接伝えたいところです。
人間はいつか必ず死にますが、それは別次元の話です。

お子さんが亡くなったことへお寄せ頂いたご意見の中で、ゆきうさぎさんのお話はこれから出産をされる方には先に読んでおいて頂きたいとおもうことでしたので、記事として取り上げさせていただきます。
ゆきうさぎさん、有難うございます。
(また、お寄せくださった皆さんのご意見は、件のお母さんとお子さんへとおもい、今回はあえて私はコメントを書きませんでしたが、皆さんのお言葉全てに尊いものを知り、感じましたので、この場にて御礼申し上げます、皆さん有難うございます)


(2009-10-26)
このブログの読者でしたが、初めて投稿いたします。
産科医院に勤務する小児科医です。

この平成の世で、新生児死亡率が他の国のどこよりも低いこの日本で、K2シロップを与えられなかったことが原因で死亡する赤ちゃんがいらしたことに、深い悲しみと激しい憤りを覚えます。

新生児に与えていいものは、本来は母乳だけです。
母乳が不足している場合や、何らかの理由で母乳が与えられない場合に、母乳代替としてミルクを与えます。
もちろん、何らかの治療として与える薬剤は別です。
K2シロップも、薬剤として開発されたものです。
ビタミンKは肝臓で作られ、主に、血液を固める働きがあります。赤ちゃんは肝機能がまだまだ未熟なので、ビタミンKの産生も少ないため、かつてはビタミンK欠乏による消化管出血や、重篤な例では、頭蓋内出血などで命を落としたり、後遺症を残した赤ちゃんがいました。
これを防ぐために、今では産科医療機関で出生する全ての新生児に、生後5日めと、生後1ヶ月の2回、K2シロップを投与しています。全例投与になってから、新生児のビタミンK欠乏による不幸な事例は、劇的に少なくなりました。

それなのに、こんな、当たり前のことが、されていなかったなんて!(T_T)

赤ちゃんがお亡くなりになった詳細は、診察した当事者ではないので、百歩譲って、もしかしたら、ビタミンKが足りないことだけではない、他にも何か原因があるかもしれない、ということも言えるかもしれません。(これはあくまでも仮定です。個人的にはビタミンKの不足なのだろうと考えます。)
でも、「防ぐ手立てのある疾患に対し、適切な対応をされなかった」という事実は、信じられないことです。
ここは、途上国でもない、内紛で無政府状態になっているのでもない、日本なのです。

予防接種についても、時々親御さんから「効果はあるのですか?」という質問が寄せられます。
どんな治療でもワクチンでも、100%なんてことはあり得ません。
でも、何らかの対策をとっても駄目だった場合と、
何も対策を取らずに駄目だった場合と、どちらが後悔が少ないでしょうか?

現代に暮らす私達の生命力などは、自然のままにまかせれば、あまりにも脆くはかないものです。
すでに野生の能力を失っている私達には、それなりの知識と知恵で生きていかなければなりません。
その方法のひとつが医療行為なのだと思います。

自然に暮らすことを目指すのは結構。
でも、そのためには、限界を知ることではないでしょうか。
自然は、決して甘くはありません。
何でも自然がいいなどど言っていられるのは、医療費も保険で賄い、分娩費用も自治体から補助が出て、医療水準の高い安全な日本で暮らしているからこそ、なのだと思います。

私の患者さんにも、ホメオパシーを取り入れている方々がいらっしゃいます。そういった方法を、頭から否定するつもりはありません。現代の西洋医学と、上手に共存すればいいのではないかと思うのですが・・・。

大人が、自分の考えで「スタンダードな医療行為」を否定・拒否するのは、それは仕方ないと思います。
が、子どもには、自分で判断する術はまだありません
お子さんが成長するまでは「スタンダード」な対応をひとおおり施せるように、親御さんを支援するのが、医療従事者の役割と思っています。

助産師さんたちの多くは、誠実にお仕事をこなしてらっしゃるのだと思います。当院の助産師さんたちも、皆優秀です。皆、お産の怖さを知っています。
私もそうですが、経験を積めば積むほどに、怖さも味わいます。
なぜならば、ある一定の確立で、不測の事態は必ず起きるからです。万に一つしか起こらない不測の事態は、万の経験を積まなければ味わうことはありません。
そして、一度味わった不測の事態は、決して忘れることはなく、その後の医療行為の糧になっています。
開業助産師さんが全部、経験が少ないと申し上げるつもりではまったくありませんが、年間に数百人の分娩を扱う産科医療機関と、年間に数十件のお産を扱う助産院とでは、経験によって培われる「勘」は、違ってくるのではないでしょうか。
(年間数百件の分娩を扱う助産院もあるかと思いますが・・)
何かおかしいぞ、という「勘」は、実はとても大事だと思います。

自然を甘くみることなく、なおかつ、医療を過信せず、赤ちゃんとお母さんのサポートができるようにしたい、いつもこのように考えています。

長くなりました。
親御さんが、どうかご自分達を責めることがありませんように・・・。
赤ちゃんのご冥福を心からお祈りいたします。

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ゆきうさぎさんのご意見にもありましたが、件のお子さんの死因ですが、血液検査の結果、ビタミンK欠乏であることがはっきりとしたそうです。
これはホメオパシー・レメディ問題を考える上でも、大きな原因、結果ではないかとおもいます。
件のお母さんのお気持ちを想っても、非常に残念な結果です。
言葉がありません。