帝王切開が最後の切り札になるわけではない

先日の当ブログ>それは必要なことなのでしょうか…
のコメント欄でいつもご意見くださる勤務助産師のふぃっしゅさんからの
『逆子で入院してからほぼ全開だったのにそこからそうとうな時間を要したようで、「お尻が触れるようになったのに」進まずに、そこから搬送されたというだけで、分娩にかかわっている人ならドキドキしますよね。
そこまで逆子で下がっているなら、頭がかなり下がっていて帝王切開でも出てこない可能性が高くて、促進剤を選択したのでしょうか。
こんな状態で搬送された病院のスタッフの気持が、よくわかります。
一番びっくりしたのは、前日にハイキングをしているところですね。
最近、産婦さんにハイキングを勧めている助産院があるようですが、リスクを高めるような流行をつくるのはやめてほしいです。』

に対して、具体的に教えて欲しいとお願いしたところ、ご回答くださいましたので、記事として紹介させて頂きます。
ふぃっしゅさん、有難うございます。

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ご質問のように、帝王切開にする判断の時期が遅れると、頭位の場合は児頭が、骨盤位の場合は児の臀部から体幹部が骨盤の中に深く入りすぎて、帝王切開でも娩出に時間がかかってしまうことがあります。
開腹したのに児の娩出に手間取っていると、児の状態もどんどん悪くなりますし、母体の出血量も増えて母子ともに危険です。まして逆子の場合には、さい帯も体幹部と一緒に下がっていますから、児の娩出に手間取っているとさい帯圧迫で児の状態はかなり悪くなる可能性があります。
帝王切開最後の切り札になるわけではないのですね。

今回の経過をご本人の記録からたどってみると、3月15日の2:30に破水して産院についたときは10分間隔の陣痛があり、子宮口はほぼ全開で「昼ごろには生まれる」と言われたようですが、それから進まずに、翌日に搬送されて出産されているようです。
今回はたまたま、搬送されていた時に児心音も悪くなく、促進すれば娩出可能なぐらいの位置に下がっていたのではないかと思います。
ただし、それぐらい下がった状態で児心音が悪い場合でしたら、促進剤を使っても、帝王切開にしても、赤ちゃんは相当ひどい状態だったことでしょうまさに奇跡的だと思います。

骨盤位で子宮口が全開してからも1日近く様子を見たこと自体、通常の産科関係者には信じられないことだと思います。
全開して、児も下がってきていて心音も問題なければ、有効陣痛がなければここで促進すれば1〜2時間で娩出されていると思います。
促進を試みても陣痛が弱かったり心音が下がれば、この時点で帝王切開の判断になると思います。
骨盤位で全開近い頃は、もっともさい帯圧迫などで児の状態が悪くなりやすかったり分娩停止になりやすい時期なので、通常はいつでも緊急帝王切開に備えています。そのような状態の時期に1日近く、何も「医療介入なし」で様子を見ることは、「放置」とも呼べるのではないかと思います。

最近は「骨盤位は経膣分娩は行うべきではない」という傾向ですが、いつでも緊急帝切ができる状態の施設であれば、産科医の判断で経膣分娩を試すことは可能だと思います。
けれども、帝王切開もしない、促進剤さえも使わない産院では、やめたほうが良いと思います。

今回は、本当にたまたま赤ちゃんも奇跡的に元気に生まれたのだと思います。
このような「個人的体験」から「骨盤位の自然分娩も大丈夫」「なにかあれば搬送されれば大丈夫」と信じるのは、大変危険なことです。
「奇跡的」に助かるのではなく、赤ちゃんができるだけ安全に生まれてくるようにとさまざまな研究が行われ、骨盤位分娩のリスクについての根拠に基づいて帝王切開も経膣試験分娩も選択されています。

3月11日のブログの中で「出産の途中に何かが起きて緊急搬送になり帝王切開になったとしても後悔はないと思っています」と書かれていますが、これはあくまでも「自然分娩を選んだのに」「帝王切開になってしまった」という文脈のうえでのことなのでしょう。
骨盤位の場合、経膣分娩、緊急帝王切開になった場合のそれぞれの新生児仮死、新生児酸血症、要蘇生術の割合など、危険性についてきちんとご本人への説明がされていないのではないかと思いました。


妊娠中の運動やどれくらい歩くか、についてはさまざまな意見もあると思います。
今回問題に感じたのは、逆子で子宮口も開き始めている時期にハイキングに行くことです。
骨盤位では破水直後にさい帯下垂や脱出が起きて、胎児への血流が悪くなり仮死を起こすことがとても怖いことです。
家の周囲の散歩ぐらいはかまわないと思いますが、ハイキングの途中で破水したら、対応が遅れて最悪のことも起こりうると思います。
分娩が近づいた妊婦さんにハイキングをなぜ勧めるのか、その根拠をこちらが知りたいところですね。

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読ませていただいていると、どんどんと色々な話が甦ってきます。
帝王切開を負い目に感じる方たちがいらっしゃり、酷い方だと、子供が無事に生まれているのに育児が出来ないほどだというのです。
周囲の心無い方の中には、『お腹を痛めて産んだわけではない』というようなことを冗談めかして言うのもいるらしく、そういう話も思い出しました。

医療に詳しくないと、多分、多くの方が『最後は帝王切開でどうにかなる』程度の認識なのではないでしょうか。
だから、帝王切開があるから無事に生まれるのは当たり前だし、帝王切開で必死のおもいで産まれて来た子供や産んでくれた母親に賛辞がない。
簡単に産んだという感覚。
正直、私も多分、琴子をお腹に宿している頃はそういう感覚だったのだとおもいます。
でもこれは、あくまでも“医療に詳しくない”立場の者だからという言い訳がつけられますが、問題はこの感覚を医療に詳しいはずの人たちが植え付けていないか? ということです。
“いざとなったら搬送します”という断りは何を指しているのか−陣痛促進剤というよりも、多分、いざとなったら病院に搬送され、帝王切開で産むということに傾いていないでしょうか。
勿論、陣痛促進剤も助産院や自宅出産では使用出来ないはずですから、必要であれば病院に行くはずなんですが、最近はレメディで陣痛促進剤の代替があるというので、効果は別問題として、“何かあったら搬送”は余計に帝王切開を意味していることになりませんかね。
でも、その帝王切開でも解決出来ないことがある、最後の切り札にはならない。
これはしっかりと知っておく必要があるとおもいますよ。
搬送の見極めがいかに大事なことなのか。
そもそも、搬送されているから皆元気…なんてことがありませんから。

今、当ブログでも何度か話に出てきていて、今回のふぃっしゅさんのご意見の基にもなっているお方のブログに寄せられているコメントの中に、他の方でもやはり逆子で経膣分娩、子供も無事だというのが寄せられていて、凄く残念です。
否、無事に生まれていることは良かったと言いたいのですが、逆子でも経膣分娩出来るんだという印象だけを強く残すような気がしています。
影響を受ける方は少数派であったとしても、危険に晒されるのは赤ちゃんですから、無責任な発言にはブレーキをかけたい気持ちになります。

妊婦のハイキング&過剰なまでの散歩運動については、私もふぃっしゅさんと同じで
分娩が近づいた妊婦さんにハイキングをなぜ勧めるのか、その根拠をこちらが知りたいところですね。
どなたか、根拠をご存知の方がいらっしゃったらお願いします。
私は『子供が早く下りてくる=安産になる』というのをよく聞きまして、家の周囲を散歩する程度の運動は毎日していましたが、今回、例のブログを読んで子宮口が開きだしてから山道をハイキングというのはびっくりしました。
まるっきり、“何かあったら”という説明を受けていないのだろうと感じるばかりです。

他にも書きたいことが頭の中にわんさかあるのですが、改めます。