「会陰縫合術についての意見」

いつも貴重なご意見くださる助産師のふぃっしゅさんが、当ブログに記事を書いてくださいました。
とても興味深いお話です。
ふぃっしゅさん、有難うございます。

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書店で「正常分娩の助産術ートラブルへの対応と会陰裂傷縫合術ー」(進純朗/堀内成子著、医学書院)という本を見つけて驚きました。
まずは、以下の引用部分を読んでください。

以下、引用(104ページ)

これまで会陰裂傷縫合術ができない助産師にとって、分娩介助術の習得は「会陰保護法の習得にほかなりませんでした。しかしここ数年の産科医不足により、会陰裂傷縫合術を産科医すべてに頼ることが困難になってきました。そこで、すでに法的存在としてあった「臨時応急の手当て」が現実のものとして動き出し、助産師が膣・会陰裂傷縫合を行うことに、医療現場では正当性が与えられるようになってきたのです。
2008(平成20)年に厚生労働省が出した助産師教育の卒業時には、会陰縫合が学内演習でできるという項目が挙げられていました。これはわが国の助産師教育を大きく変換させる画期的なものでした。「臨時応急の手当て」であっても、実地助産に携わる助産師は、分娩介助の技の1つとして会陰裂傷縫合ができるということが必須の条件となったのです。これにより「会陰裂傷をつくったらどうしよう」とおびえる
ことなく、フリースタイル分娩に対応したお産の進行に勤めていただきたいと思います。

「医療現場では正当性が与えられた」本当ですか?
現場で働く助産師のみなさん、また産科医の先生方、ご存知でしたか?


1.誰のための会陰裂傷縫合か?

「縫合術を産科医にすべて頼ることが困難になってきた」とありますが、初耳です。
裂傷縫合術もできないほど産科医が疲弊していたら、分娩の取り扱い自体をやめていると思います。
となると、これは助産院の現状でしょうか?
入口は「産科医不足を補う」理由ですが、出口は「裂傷も助産師で縫合できれば、産科医不在でもフリースタイルのお産をどんどんやってください」になっています。


2.どういう経緯で助産師の会陰裂傷縫合術の話が進んできたか

2007年12月の「医療現場の規制緩和策の原案」の中に、「助産師による正常分娩の会陰切開・縫合」が挙げられています。同12月28日付の医政発第1228001号では、「基礎教育および専門領域の教育訓練を受けた看護師の裁量の可能性」という項目の中で「助産師は胎児仮死時に会陰切開をして分娩を促進することができるのではないか。
切開部の縫合の訓練を実施すればできる」という記述があります。

「胎児仮死時に」って、病院内では医師を呼びますから切開縫合も当然医師ができます。
ということは、これは助産院を想定している内容でしょうか?

2008年に入ると看護界での助産師の業務拡大についての動きと理由づけが活発になってます。
同年6月に日本看護系学会、日本学術会議看護分科会共催のシンポジウムでは「ローリスク出産に関しては、臨時応急の手当てということに絡んで薬剤処方、投与、会陰切開だとか産道あるいは会陰裂傷の縫合も必要になってくる」とあり、8月に出され
た「看護職の役割拡大が安全と安心の医療を支える」という提言の中に「正常分娩において助産師が会陰切開、縫合、分娩後の子宮収縮剤を投与すること」が盛り込まれています。
同年10月には上記の著者堀内成子氏が、日本助産学会主催の研修で「女性に優しい会陰裂傷縫合術」というテーマを担当しています。


3.「臨時応急の手当て」の解釈

助産雑誌(医学書院)2009年1月号には、助産師学生に対する会陰切開および縫合の学内演習についての投稿がありました。
その中で「開業助産師にとって臨時応急の手当てを施す事態として、止血のための圧迫や会陰裂傷2度以上の場合は止血のための縫合をすることも不可欠である」「応急処置の技術は自立した助産師の育成にとって不可欠である」と書かれています。

ここでもまた「開業助産師のための」あるいは「自立した助産師のための」会陰縫合術の流れですか?

助産院の状況や統計は公開されているものがほとんどなく実態はわからないのですが、日産婦医会報(平成21年1月1日号)の「嘱託医における助産所からの緊急搬送事例等に関する調査報告の中に以下の記述を見つけました。
助産所の業務内容についての中で縫合は1/3で行われていた。(中略)われわれは医師として「縫合は保助看法で定める臨時応急の手当てを遥かに逸脱していると言わざるを得ない。」


4.再び、誰のための会陰縫合術でしょうか?

以上の経緯を読むと、医師側も「助産師が縫合してくれれば助かる」「裂傷縫合は臨時応急の手当て」という同意がないことがわかります。

なにより不在なのは、縫合術を受ける側の意見です。

もし産科医不足を補うために暫定的に助産師が縫合術をする必要があるのなら、きちんと社会に同意を得られるように働きかけなければいけないはずです。
同じ値段で、知識・技術レベルの格段に下がる助産師の縫合で当面は我慢してくださいということなのですから。
海外の助産師は切開も縫合もできるからという主張もありますが、小手術ですから、いつでも産科医に対応してもらえる日本は医療レベルとして恵まれていると私は思います。
それでも、助産師の縫合の方がいいですという方もいらっしゃるのでしょうか?

また産科医不足が根本的な原因であるとすれば、その解決に向けて助産師も働きかける必要があると思いますが、そのような動きはないですね。
産科医不足の暫定的な対応として助産師に縫合術をさせるのであれば、学生に教えるよりはすでに臨床経験が豊富な助産師限定で指導した方が産科医だって助かることでしょう。

助産師に会陰切開・縫合術を認める法的根拠も社会の総意もないうちから学生の実習に取り込み、臨床の助産師にも「正当性が与えられた」と本まで出るのはどういうことでしょうか?
また違法行為である縫合が助産院で行われている現実には目をつぶり、合法化を図るのですか?
あれほど、助産師の上層部は看護師の内診問題には違法性を主張していたのに。

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私は医学的な処置を学んだことはありませんので、専門的な見解、意見は出来ませんし、今回はふぃっしゅさんのご意見のままにまずは記事にします。
私と同じく医学的な、専門的知識を持たない方でも感じることあれば是非ご意見ください。
凄く興味深いことです。
宜しくお願いします。