「会陰縫合術についての意見」から考える−1

当ブログの先日のふぃっしゅさんの記事『[「会陰縫合術についての意見」:title=「会陰縫合術についての意見」]』に皆さんがくださったご意見と一緒に、更に考えていきたいとおもいます。
今回は医療従事者の方のご意見を記事にさせて頂きました。
ご意見くださった皆様、有難うございます。


有難いことに、勤務助産師の方からも貴重なご意見を頂きました、有難うございます。

助産師が縫合なんてありえない。
自分だったらぜーったいやりません。
14年たって、沢山のお産にかかわっててもお産はこわい。
一寸先は闇です。
なんの怖さもしらない卒後まもない助産師の新人さん、開業するってことは人の命の責任をとるということです。
助産師一人では、何の医療処置もできません。
安全なお産には、敏速に動ける医師の存在は絶対不可欠です。
私は個人的に助産院での分娩は、反対です。

  • MW yuさん

はじめてコメントさせていただきます。
総合病院産科で十数年の勤務助産師です。
病院の勤務助産師は縫合に時間を割ける程暇ではありません。
(医師が暇だという意味ではありませんよ)
分娩介助の後も、新生児やお母さんの状態を観察しながら、新生児の出生直後のケアをし、計測をし、胎盤の計測、処理、出血量のカウント、記録などなど仕事は途切れることなくあります。その間に、他に分娩進行中の産婦さんがいればそちらのケアや分娩管理もしなければなりません。看護体制によっては入院患者さんもみなければならないところもあるでしょう。
 当直明けも業務がある産科医を起こさなくても良いように助産師が縫合するのでしょうか?産科医の激務は分かっていますが、医療処置は医師の職務ですので医師がするべきと思います。医師不足の解決の方向が違うと思います。
助産師には助産師の職務があるはずです。医師のかわりに医療処置が出来ること=助産師の能力の高さではないはずです。
開業の方は勤務助産師は医師に依存していると下に見ている傾向がありますが、私は依存しているのではなく、協働しているのだと思っています。

病院で産む産婦のことを、助産院や自宅出産(果ては無介助分娩)で産む産婦達は
「依存的で自己管理が出来ない人」
というような表現をしますが、助産師の間でもやっぱりそうなんですね…
MW yuさんのご意見へ僻地の産科医さんより

>協働している
そのとおりです。ただ単にそれだけのことなんですけれどね。。。

搬送だって、この精神をもっていないのならば、頼ってはいけないでしょう。

  • ふぃっしゅさん

産科の先生方の会陰裂傷縫合術のご体験というのは、助産師側は知る機会がなさすぎると思います。縫合術を学生に教える前に、縫合不全や膣・直腸ろう、そしてそれらが女性のQOLに与える影響こそ学ばせる必要があることだと思います。

会陰切開・縫合を助産師に認める動きについては、以前もこちらのブログで議論がありました。
そこのコメントでも書いたのですが、何故政府の「経済諮問会議」で唐突に「助産師の業務拡大」のひとつとして、会陰切開・縫合術の解禁が話し合われたのか、なぜ現場の助産師が必要としてもいないことが話し合われているのかが、ずっとひっかかっています。

「経済諮問会議」→「医療現場での規制緩和」とくれば、医療への民間資本の参入、ビジネスチャンスという言葉しか浮かばないのです。ここ数年のマスメディアを通しての「自然分娩万歳」「助産院・自宅分娩万歳」の傾向を見ても、なにか「お産は自然で大丈夫」ということを信じこませたい人たちがいるのではないかと不安になります。
あれだけ医療事故については徹底的に医師や病院を追求するマスコミが、なぜ助産院の事故や安全性には疑問もって調べることがないのでしょうか?
会陰裂傷の縫合を助産師ができれば、産科医から独立した助産所を開設しやすくなります。そこがビジネスチャンスと思っている人たちがいるのではないかと。
陰謀論すぎるでしょうか?杞憂ならいいですけれど、心配です。
このような世の風潮に乗って「助産師の権限を守る」ことに一生懸命なあまり、気がついたら周産期医療の安全性が取り戻せないほどに悪化していた、ということは何としても避けなければいけないと思います。

もうひとつ、私は医学書院の助産関係の出版のあり方に疑問があります。
医学書院から出している「助産雑誌」には、マクロビ・菜食・アユールヴェーダなどをすすめている助産院を載せたり、編集方針に疑問が多々ありました。
上記の本の中にも、「『自然裂傷』より『切開』のほうが傷はきれいで早く治る、という医師の説明と洗脳教育」(P105)など、表現に問題がある部分が多いです。
専門職とはなにか、専門職を対象にした出版とはどうあるべきか、読む側も厳しくあるべきだと思います。

今回、助産師側のコメントは「14年目の助産師」さん、おひとり。(ありがとうございます)ちょっとさびしいですね。「医療現場で正当性が与えられた」を「知っている」か「知らないか」だけでも私は知りたいので、助産師の皆さん、教えてください。

    • -

医療者ではない私たちには、自分が経験したこと以外は分からないのは当然ですが、ふぃっしゅさんが教えてくれた本の内容をそのままに読むと、
「あー、お医者さんは忙しくて縫合もやっていられないから、そうだよね、だったら助産師の人が出来るんなら、その方がいいんだろうね」
と何も考えないで受け入れ始めちゃうのかもしれませんが、でも実際に縫合をする医師の方からは

  • 僻地の産科医さん

昔、むか〜し。私が研修医になったころにいろいろ教わった助産師さんは、「若いころは会陰縫合していた」といっていました。でもだんだんとやらなくなっていった。看護局から規制がかかるようになっていったからだと言っていて、もう私の頃には教えることはできないなぁって笑っていました。

最初のころ、会陰縫合なんて簡単だと思っていました。でもすぐに会陰裂傷?度にあたり、肛門括約筋を縫合できず、見分けられず泣き、(上司を呼びました。たったそれだけのことだったのに!駆けつけてくれました。)そして忘れもしない?度会陰裂傷。つまり膣と直腸がつながって穴が開いてしまう裂傷です。
「うまく一度目につながないと、もうぼろぼろになる。俺の若い頃の人は人工肛門で一生暮らした!」という上司の罵声を後ろに泣きながら会陰縫合。(今でもこれだけは怖いですね。。。。)

さて。膣からうんちが出ていても、経膣分娩でも腸が麻痺するのかうんちが出だすのは3日後程度からなんですよね。その時に気がついたのでは遅いのです。再縫合しても付かない可能性が高く、人工肛門一直線。

まぁ、助産師の方々はよほど我々よりも度胸がおありと見えますね。
今の私なら、縫合しますが、5年前の私でも変わりにやってくれる人がいるなら、他の人にお願いしたでしょうね。訓練もされていないのに、よくやる気になるなぁ。。。。机上の空論のような気がしています。

  • べんべんさん

いやあ、もう、「怖さを知らない」って本当に怖いですね。上で僻地の産科医様もおっしゃっていますが、私もここに挙げられた文章を読んで、一部の助産師たちのチャレンジャーぶりには本当に感服いたします(棒読み)。
会陰の創って本当に一生ものですよ。間違っても「くっつけておけばいい」ものではありません。
私たち産婦人科医がぴよぴよとして実戦に出て恐らく皆初めて行う本格的な縫合だと思いますが、ちょちょっと合わせておけばいいような(それこそ誰でも出来るような)縫合から、骨盤の解剖を熟知していなければ絶対に無理な縫合まで非常に多岐にわたります。前もって切開を入れておこうが自然に出来た裂傷であろうが同じ。分娩後私たち医師は会陰から産道の奥深くまで丹念に検索し必要に応じて縫合します。外は大したことなくても奥はぱっくりざっくりなんて普通にあります。
立派な「外科的手技」が要求されるんです。
産婦人科医は「骨盤外科医」としてトレーニングを受けるんです。それこそ上級医師から罵声を浴び、場合によっては手も上げられながら。それほどまでに技術を付けなければきちんと出来ないんです。ちょちょっと本でかじった位の知識でどうにかしようなんて馬鹿げているし、産婦さんにもあまりにも失礼な態度です。

私たちはお産が終わって長年たっている女性もたくさん診ます。「お産が終わってしまえばサヨウナラ」ではありません。
「お産の時の処置がもう少しちゃんとしていれば・・・」と思うような状態になっている年配の方も少なくありません。
会陰の創の処置を甘く見ているような助産師がお産を扱うなんて許されないことです。

※べんべんさんの記事内容を間違ってコピペしてしまっていたので、9/12に修正しました。べんべんさん、大変失礼しました。

気管挿管という救命のための人工呼吸のための手技があります。医師であれば、やっていい行為です。しかし、医師以外では訓練を受けた救急救命士しか、許されていない行為です。それでも限定された状況だけです。では、会陰切開、縫合について助産師が緊急避難的に許されるとして、その技術の担保は明確な基準があるのでしょうか?救急救命士の挿管については、はっきりとした承諾書を必要とする実習で、30例の成功を条件にして許可されます。

  • suzanさん

会陰切開を縫合したあとって、
なんだか知らないけど「開く」ことがあるんですよね。
ええ、「治癒不全」ってやつです。
お産のときはね、まだいろいろあって
生んだほうも興奮してますけど、退院して
外来受診で「ぱっくり」開いたきずを見せられた日にゃあもう…。

外来で、局所麻酔かけて縫う、だけでも、冷や汗で全身びっしょりです。
それがまた開くと今度は、
入院させて腰椎麻酔で、きず周囲をメスで少し削って
で、縫い直す。

こういうこと、助産院でやるんですかね?
縫うだけ縫って「開いたから産婦人科へ」って押し付けるの?
…たぶんそうなんだろうなぁ。
研修医が縫った傷が開くのを縫い直すのは、
教育だからいいけどさ。
開業助産師さんは、再縫合術のとき病院に来て
きちんと見学してくださって、
縫合技術向上につとめてくださるんでしょうか?

  • triasさん

私は地方で働く産婦人科医で、周囲を見渡しても産科医は自分だけ。と言う
職場で働く機会も多くありました。
そんな中でも、
「会陰裂傷縫合術を産科医すべてに頼ることが困難」
な状況と言うのが、いまいち想像できません。
と言うか、そんな分娩状況を作り出すような周産期施設は、現時点で存在しては
いけないと考えます。
産婦人科医の助けを呼べない状況でお産を取り扱う方は、医師不足の助けとなる
どころかトラブルメーカーでしかありません。

皆様が言うように、会陰縫合は決して簡単な縫合ではありません。
外科を研修し、上級医の縫合を何十回も見てきたはずの産婦人科医1年目の
先生も、10回程の会陰縫合の経験では独り立ちできません。
それは、自然裂傷・会陰切開にせよ100人いれば100通りの傷が存在するからです。
それを、出来るだけ自然に近づけられるように、オーベンの目の届く範囲で、「技」
を習得させていくのが、産婦人科医の作り方です。

そして経験を積んだ産婦人科10年目の医師でも、3度・4度裂傷の縫合や、膣円蓋
に及ぶ裂傷、深部の頚管裂傷を縫うのは、代わって貰えるなら代わって欲しいと
思うのではないでしょうか。それを助産師が本当に縫ってくれるなら、有難いです。

ですが、医学書院の本で想定しているのは、1度裂傷、せいぜい2度裂傷だと思います。
それは「待てる裂傷」です。産婦人科医を呼べば良い裂傷です。
それすら産婦人科医を呼べないなら、やはりその施設は分娩を取り扱うべきではない
と考えます。

  • tadano--ryさん

産科研修中に、助産院で会陰縫合された創が感染を起こしたのに気づかず、
形成された膿瘍からseptic shockとなって搬送されてきた例を経験しました。ただ悲惨の一言でした。若い外科医が手術で縫合させてもらうまでにどれだけ練習するか、この人たちは知らないんですかね。

  • 放置医さん

縫合の上手下手は見て判りますし、創部の感染はやっかいですのでとてもうるさく教育され、触らせてもらえない様な事もありました。学生に縫合の勉強とか助産師の縫合って・・・。医療行為を舐めきってますね。tadano-ryさんご紹介の件では当然助産師は訴えられたんですよね*1

ふぃっしゅさん
見過ごせない問題ですので医学書院には問い合わせのメールをしてみました。

次は当ブログのコメント欄ではないのですが、医師の方のブログから
shy1221さんのS.Y.’s Blogブログ>助産師による会陰切開・縫合


「本になる」って凄いっておもってしまいますよね、一般的には…
でも無介助分娩の指南書なるものが出ていたり、自宅出産や助産院こそが素晴らしいのだとか、病院で生まれた子供は可哀相だとか、まぁ7年前の私が読んでいたら影響受けまくってしまったかもしれないようなトンデモな本が多いということを知れば知るほど、いかに正しい情報を得るのが難しいことなのかも痛感します。
こうやって医師の方のご意見を聞くと、会陰縫合の技術習得にどれほどの苦労をされているのかを知ることも出来るし、それを安易に考える人たちの危険性も知ることが出来ます。

今回のこの会陰切開は私たち産む側が求めていることなんでしょうかね。
助産院や自宅出産を選択する方は、上に子供がいて預かって貰える人もなく…とか、そういう問題で選ぶ方の中には「本当は病院に行きたかったけど」ということもあるわけですが、基本的には
「会陰切開? あれって早く出させたくて医者がすぐに切っちゃうんでしょ? 本当は切らないでも産めるのに…」
という意見から反医療的精神で選択する方が多いとおもいます。
まぁこれを“暴力的なお産”などと言って、関わるどの方のことも実に侮辱した言い方をしているわけでもありますが…(実際に暴力、レイプを受けた方に大変失礼な表現だとおもいます、それを更に一般の産んだ方に言わせている現象もありますから非常に歪んだものを感じます)
緊急時には縫いますよーっていうのもよくわからない。
私たち一般人からしたら、「緊急事態だったのよ!」って言われりゃ「そうだったのか!」とおもっちゃいますもん。
だれも正しく判定・批評できる人がいないのが“自然分娩”でもありますからね。

やりたい放題じゃないかという疑問は以前からしていますが、これらの暴走をどうしたら止められるのか、非常に不安になります。

この件に続いて、コメント欄にてふぃっしゅさんから更に問題視するべき意見が届いておりますので、それも別記事としてご紹介させて頂きます。
また、今回は医療従事者の方のご意見からでしたが、近く別の立場の方たちのご意見も記事としてご紹介していきたいとおもいます。

*1:tadano-ryさんからのご回答>民事では件の母親が辛うじて一命を取り留めたこともあり、示談になったと記憶しています。 刑事の方はどうなったか把握していません。