“いいお産”とは何か? −4 「実践報告」が真実ならば…

当ブログ、2010年11月18日の「“いいお産”とは何か? −3 産婆から助産師への歴史と業務拡大について」の続きは後にします。
今日はふぃっしゅさんから頂いた資料の中から助産雑誌2009年の63巻2号
『■実践報告 地域産婦人科病院における助産師卒後研修制度と院内助産院設置の経過および現状 産婦人科医の立場から』
諏訪マタニティクリニック 病院長 根津八紘医師著
をご紹介します。
ふぃっしゅさん、有難うございます。


根津医師は代理出産でも有名な方ですので、私でも存じていましたが、記事の“はじめに”で表されている

そして、突然、これまで産科医療領域であまり光を当てられて来なかったとも言える助産師に白羽の矢が立った。

という意見を目にし、「え?! そういう感覚なの?!」とおもってしまったのですが、多くの方はどうなのでしょうか。これが、助産師の方に「病院に戻ってきて!」という意見ならばわかるのですが、この後に続く

すなわち「産科医が減ったなら“お産の専門家”である助産師に頼めばいい」ということになったようである。

そんな簡単なことだったのでしょうか…なんかちょっと違うような気がします。大体、産科医の方だってお産の専門家ですよね? でも、助産師にはあえてこういう言い方を用いるのですけど、帝王切開は医師にだけ出来る出産です、これが出来ない助産師を“お産の専門家”と表現するのは、やはり“いいお産”というもの、お産というものに帝王切開を入れていないのだなぁと再確認出来ますね。私は帝王切開した母親達が子供の無事に感謝するよりも、「希望していた結果と違う」と嘆くことに非常に問題を感じていますので、こういうなんとなく受け継がれていく線引きにも問題を感じます。
根津医師の書かれた記事は助産師の卒後研修制度にも触れられ、

  • 歴史的背景−消えてしまった産婆
  • 助産師卒後研修センターへの道

と項目があります。産婆から助産婦となり、病院での8時間勤務体制下で産科看護婦的役割を担う形になってしまったというご意見の後、

このような過程のなかで得られたものは、現代医学のほんの一部が産婆領域に取り入れられたことくらいではないかと思う。それよりも、むしろ産婆時代に持っていた良さを失ってしまったものの方が大きいくらいで、その大きさを今、私たちは認識しなければならないのではないかと考える。

う〜ん、私には逆に感じられるのですが…。琴子が生きていたら、私はこういうご意見に納得していたのかもしれません。でも、産婆時代の良さというものだけを聞かされ、多くの子供が出産時に死んでしまっていたのだ、母体だって「棺おけに片足」という覚悟を持つべきほど命がけのものだったということが「大袈裟な話」扱いで、その結果で子供が死んだ親からすると、「産婆時代に持っていた良さ」を具体的に、子供の死を越えるほどにあるらしい良さを教えて欲しくなります。

記事の後半は“院内助産院”へとご自身の施設が展開していったこととなって、その中にも医療内容が充実しても避けられない母体死亡、胎児死亡、重篤な後遺症が残ってしまこともあるのに、産科医には

母体と胎児双方の安全を維持する義務を負わされており、その上に、24時間拘束される環境のなかに置かれている。かつ、こんな過酷な条件下であるにもかかわらず、それらに対する国としての対策が今日に至っても何も採られていないということである

等という問題も書かれてあります。しかし、これらの問題への対応には“助産医”が必要になるようで、「院内助産院の問題」では

私たちの経験から院内助産院の機能をさらに充実させ高度なものにするためには、助産師に対し、会陰部の局所麻酔、会陰切開、およびその縫合、また一部の薬剤に対する処方など、ある程度の医療行為に対する許可を与えるべきではないかと考える。

とあるのです。医師の方達の過酷な労働条件を改善するのに、本当にこれが必要なのでしょうか。パブコメの問題の内容そのままを見るようです。根津医師が実践している助産師卒後研修カリキュラムでは、

会陰切開適応基準に沿って医師の指導のもと、局所麻酔、会陰切開、および埋没縫合による会陰切開ができるような研修内容をも含めている

そうです。(埋没縫合というのは皮下縫合ともいうようですね、検索しながらまた勉強したいとおもいます)
ひえ〜、なんかもうどんどんと進められているところがあるわけですね…なんだかショックだ! 私は医師でも助産師でも看護師でも、医療に関わることは患者としてだけですので、専門家としての意見は持てないわけですが、ただこんなにもあっさりと始められていることを知ると、更に助産師の問題をこの根津医師はご存じないのでしょうか、確かに根津医師の場合は対象が勤務助産師に限られたようにはおもえるのですが、しかし、パブコメで求められている助産師の業務拡大とほぼ同じ内容と感じますので、結局はこういうご意見が、開業助産師にもどんどんと当てはめられていってしまうのではないかという疑問と不安でたまらなくなります。
そして、私にとっては爆弾発言です、

これは現在の医師法上問題になるかも知れないが、現実には多くの施設で当然のごとく会陰切開も縫合も助産師によって行われている現状からすれば、しっかりした指導のもとで、1日も早く公な形で、助産師によるこれらの手技の実施を可能としなければならない。

現実には多くの施設で当然のごとく会陰切開も縫合も助産師によって行われている現状からすれば
本当ですか?! 実際に助産師に会陰切開と縫合を行わせているというのは、根津医師はご自分のところではカリキュラムに組み込んでいるという発言はありつつも、自分のところでも既にそうさせているよとはないけど、自分のところもさせているということでしょうか、更に、本当に多くの施設で当然のごとく、させているのですか? もしも開業されている医師の方から「はい、させていますよ」とあったら、更にショックですけど、現実、事実を知りたいです。是非、教えてください。
根津医師はこの後にも、

臨床教育のなかには、既に述べたように、局所麻酔下の会陰切開と縫合術の習得、また限られた薬剤の処方および点滴の施行も可能とする教育が含まれるべきである

と語られていますから、かなり必要におもわれているのでしょうね…凄く怖い。先行きが不安で一杯。

多くの施設で会陰切開や縫合を助産師にさせているということを、この雑誌の出版社も問題、疑問視せずに掲載されているということは、やっぱり事実だからなのだろうか…「実践報告」として掲載されていることもあって、余計に怖い。本当に、もう既にそうなっているわけなんですか? パブコメも、ただの事後報告に過ぎないのではないかと、不安でたまらない。


記事途中にある、

一方、そうした活動のなかで、桶谷式の医科学的にみて疑問と思われる部分を改める必要性に気付き、医科学的な観点からまとめた授乳のための乳房管理法を追及し、その成果を昭和57(1982)年藤森式という形で世に問うこととなった。

で、桶谷式に疑問を感じる意見があり、そこには別の意味で興味が湧きました。助産師だからこそ関われる分野としての乳房ケアとして、産科医と助産師をしての役割分担の重要性についても語られています。そこはとっても納得いくのですが、読んでいてショックが多い記事でした。