日本小児科学会の資料をあらためて災害時に必要な知識として伝えてください

おはようございます。
余震が続きますね。今も揺れたりしています。地盤には早く落ち着いて欲しいです。一頃よりは大分落ち着いたとは思うんですけどね。でもまだやっぱり、多いですよね。

ふぃっしゅさんが震災後に各学会、団体の母乳育児、ミルクに対して発表されたものを元に、御意見くださいましたので、今日はそれを改めて御紹介させて頂きます。ふぃっしゅさん、有難うございます。

ふぃっしゅさんのご意見

まだ被災地で大変な生活や避難所での生活を余儀なくされていらっしゃる方もいらっしゃるので、「援助に対する批判」ということに躊躇しているのですが、そろそろJALCなどが出してきたメッセージ「先進国における災害時の乳児栄養」についてもう一度皆さんと考えてみたいなと思います。

日本小児科学会が4月14日付けで「避難している妊産婦、乳幼児の支援のポイント」を発表しています。(http://www.jpeds.or.jp/pdf/touhoku_10.pdf)
コメント欄からサイトへ飛べないので、長文ですがその中の授乳について転記させてください。

<授乳>
・母乳育児をしていた場合は継続することが重要。ストレスなどで一時的に母乳分泌が低下することもあるが、その場合も不足分を粉ミルクで補いつつ、おっぱいを吸わせられるよう、安心して授乳できるプライベートな空間を確保できるよう配慮。
・調乳でペットボトルの水を使用する場合は、赤ちゃんの腎臓への負担や消化不良などを生じる可能性があるため、硬水(ミネラル分が多く含まれる水)は避ける。
・お湯が用意できない時には、衛生的な水で粉ミルクを溶かす。授乳毎に準備し、残ったミルクは処分する。
・哺乳瓶の準備が難しい場合は、衛生的なコップなどで代用する。
・哺乳瓶、コップを煮沸消毒や薬液消毒ができない時は、衛生的な水でよく洗って使う。
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とても簡潔明瞭で、現実的な良い文章だと思います。今後の災害時には、この文章がスタンダードな考えとして伝えられることを望みますね。
また日本未熟児新生児学会でも、3月17日付けで農水省あてに「新生児医療を担う医師からのお願いです。育児用調製粉乳配布を至急お願いいたします。」という要望書を出しています。
その中の一文を引用します。

<以下、引用>
本来、乳児は母親の母乳で育児するものです。しかし、このような有事において、母乳の栄養環境、精神状態が著しく阻害された状態、あるいはそもそも母親との離別を余儀なくされた乳児にとって、ミルク(育児用粉乳、衛生的な水、哺乳瓶もしくはカップを含む)は唯一の食料です。容易に栄養不良、脱水に陥る乳児にとって、その不足は生命の危機に直結します。
<以上、引用>

どちらの学会も、「先進国における災害時の乳児栄養 <特に粉ミルク配布時の注意点について>」の方が先に紹介されていますが、やはり現実的ではないところが多かったのではないかと推測しています。

小児科学会の上記の説明は、すんなりと読めます。そこには、「母乳>ミルク」「紙コップ>哺乳瓶」のような価値観を極力排除した客観的な文章だからだと思います。

今回の被災地での母乳支援を振り返ってみると、善意と正義感は時に強大な思想集団を形成してしまう危険性があるのではないかと感じました。
WHOの母乳栄養の十カ条の歴史的背景には、70年代の貧困国へのミルクの販売促進が不衛生な中での調乳によって多くの乳児を死に追いやったことがきっかけであることはよく知られていることです。
70年代以降、母乳についての運動がまとまって今日の流れになってきているのですが、その中心的存在がラレーチェリーグかと思います。
80年代に日本も母子異室制・規則授乳から母子同室・自律授乳に替わりだした当初、私もラレーチェリーグの出版物を大いに参考にさせてもらいました。その頃、自律授乳なんて習わなかったし、今のように出版物も情報もなく本当に試行錯誤の連続でした。

「赤ちゃんにやさしい病院」という表現が世に出始めた頃から、私はこの世界中の母乳推進の流れに違和感を感じるようになったのですが、今回の被災地への動きを見てこんなにも信じて広げようとする人がいるのかと、愕然としています。

UNICEF,WHO,UNHCR,WFPなどの国際機関と母乳推進のNGOの共同体であるIFEコアグループが「災害時における乳幼児の栄養 <災害支援スタッフと管理者のための活動の手引き>」を出しています。
その中に、「災害の場では、哺乳瓶や人工乳首の寄付は断るようにしましょう。母乳代用品、哺乳瓶、人工乳首の寄付は、どんなに善意であっても断るようにしましょう。」「母乳代用品とその他の乳製品は認定された厳密な基準に従って、それらを必要とする乳児の母親や養育者のみに支給されるようにしなければなりません。」「災害時のような状況では、哺乳瓶と人工乳首の使用は積極的に避けるようにしましょう。」といった文章が並んでいます。
また、世界母乳育児週間という活動では、現地での災害対応として「母乳代用品、哺乳瓶、人工乳首の寄付を阻止し、対処するために行動する」とか、メディアに対して「よかれと思って寄付する母乳代用品がむしろ『百害あって一利なし』であることを知らせる」など書かれています。
http://www.bonyuikujinet/?p=666)*1

この過激さは、環境問題や捕鯨に対する欧米のNGOと重なりあいます。
欧米のNGOの中には、自分たちの主張を推し進めるために政府や国際機関への積極的なロビー活動を繰り広げていく団体を多く見ます。また独自の監視機構を持って、自分たちの「正義」に当てはまらない対象に対しては暴力的な行動も是とするのは、「自分たちは正しい」と思っているからこそできるのだと思います。
上記にもWHO,UNICEF,UNHCR,WFPなどを巻き込んているのは、政治力の強さだろうと推測しています。

「母乳」もとうとう、そういう対象にされてしまったのか、と暗澹たる想いでいます。

最後に、お願いです。
背景をよく知らずに今回JALCのメッセージを広げた方、日本小児科学会の上記資料をあらためて災害時に必要な知識として伝えてください。
あるいは次の災害時には、思い出してください。
周産期関係者は、まずは基本姿勢としてこの小児科学会の方向性を理解することが大事ですし、すべてのお母さん赤ちゃんに必要なことだと思います。

母乳育児支援ネットワークを見ると、その過激さはよくわかります。貧困国の話が頻繁に出されていて、震災後の不安なのか、貧困への不安なのかがわからなくなってきます。

母乳育児が出来る人は継続すればいいだけだし、その際に別室が必要とおもう方は避難所の担当者や周辺の方に頼んでそのような空間を作ってもらえるようにするだろうし、私だったら上手く隠して人がいてもあげちゃっただろうし、駄目だ、出ない!となったら、悩まずにとりあえずという気持ちでいいから、ミルクをあげればいい、と私はおもうんです。ミルクでも母乳でも、赤ちゃんは必要に応じて泣くんだから、赤ちゃんがいる家庭への理解や配慮は母乳かミルクかでは変わらない。

日本小児科学会の発表された内容の3.健康と生活への支援が基本形ですよね、

① 心身の健康状態と症状に応じた対処方法の把握、その対処方法により症状が軽減しているかの判断、症状に応じた対策についての助言、必要に応じて医療機関への搬送などの検討
② 災害による生活の変化に応じた対策についての助言

それぞれに目を向ける余裕、これが“手伝う側”にないと、「こうしなきゃ駄目だ!」というような過激っぷり、押し付け的な感じになっていってしまうのでしょうね。

suzanさんの先日くださったご意見が、私の震災直下に母乳育児について意見が飛び交うときに抱いた感想と似ていました。

「あの状況下」という琴母さんの言葉に、ずっしりしたものを感じます。

そんなに被災地で母乳育児をさせたいのなら、
こちらに来てくださればいいのに。
避難所を回って、乳児をかかえたお母さんたちの環境を、
食べ物を、見てくださればいいのに。
その上で、「こうすればいい」と具体的にアドバイスしてくださるのなら
どんなに助かるか。

プライバシーのない避難所で、胸を出して授乳をする、
それだけでも若いお母さんには大変な精神的ストレスでは?
そのストレスだけでも、母乳が止まってしまうのでは?
そういうときにこちらに来て
避難所を回って、「授乳のための場所を作れ」といっていただきたかったです。

今でなく、3月11日の直後に。

運よく自宅に戻れた場合でも、水や食べ物を手にいれるために
毎日、半日以上並びます。
地震津波でぐしゃぐしゃになった家の片付け、
着るものの心配、
場合によっては親しいかたがたの安否確認のために瓦礫の街を歩き回り、
ご遺体があれば顔を持ち上げて確認し、
安置所を数箇所回ります。

乳児をかかえた母親は、そういうことを全部、免除されるとでも思っているんでしょうか?
そういうことを全部した上でも、母乳育児は絶対に続けられる、と
本当に考えているんでしょうか?

この場にいない人にはわからないことをいくら書いてもむなしいですが、
せめて「できたら続けたほうがいい」くらいの言い方をしてほしいです。
「母乳の出が悪くなるのは一時的なもの」だから、という言葉は
小児科学会が言い出した、ということは知っていますが、
原文には「できたら、できるだけ」のニュアンスがありました。
それがなぜか「絶対に大丈夫だからがんばって」という意味になって一人歩きしているのは
困ったことだと思います。

最初にふぃっしゅさんが“援助に対する批判”に躊躇とされていますが、それは多分、私にもあったし、皆にもあって、今でもあることだとおもいます。でも、こういうことを『次の震災、被災後により有意義となるために』受け入れてくださらないと、余計に押し付けだけになってしまうとおもうんです。援助は、自分達の意見の主張の場ではないはずです。母乳育児をしたかったけど、震災で出なくなってミルクになったよ、でも凄く頑張ったよね、あの震災の後、全てを失っても子供を育てたんだから!っておもってくれればいいなぁっておもいますよ、「え?母乳諦めちゃったの?」ってくれぐれも言わないで欲しいです。見下さないで欲しいです。

ふぃっしゅさん、「赤ちゃんにやさしい病院」、これもありますね。>日本ユニセフ協会・ユニセフについて 赤ちゃんにやさしい病院
これはまた後日…

*1:このURLにリンク張ろうとしたのですが、もう無いのかな?表示されないのですが、一応残しました