何故、日本の助産師には“自然分娩至上主義”が多いのか-3

何故、日本の助産師には“自然分娩至上主義”が多いのか-2からです。メイにふぃっしゅさんと私からお願いした『民間療法をしたら罰せられるという点』にくださったご意見を抜粋させていただきました。ありがとうございます。

さて、ご質問の件です。
「民間療法をしたら罰せられる」と言うよりは、「根拠のないケアを、その旨を説明せずに行ったら罰せられる」と言い換えた方が正確かもしれません。

たとえばホメオパシー。この有効性は未だに認められていません。ですから、「根拠のないケア」となります。
それを、たとえば助産師がこのように患者さんに勧めたとします。
「アニカドロップというホメオパシーがあるのですが、傷を癒すのに有効だと言われています。会陰の傷が早く治るように、薬局で買って飲んでみてはどうですか?」
これは違法です。
では、次の勧め方はどうでしょう。
ホメオパシーには科学的な根拠がありませんし、効果も立証されていません。ですが、効果があると信じて使っている人もいます。薬店で購入することができるので、誰でも使うことができますが、医師が処方する薬の代わりになるものではないので、処方薬があれば必ず服用して下さい。」
この場合は、違法とは言えないと思います。

乳房マッサージに関しても、その効果が立証されていませんし、科学的な根拠もないので、イギリスでは行いません。たとえば、私が日本式に産婦さんの乳房をマッサージしたとして、後日その方が乳腺炎を発症し、「助産師メイが根拠のないマッサージをしたからだ」と訴えられれば、私に勝ち目はありません。

英国では、看護師および助産師の免許は、NMC(Nursing and Midwifery Council)という機関が管理しています。逆に言うと、このNMCに登録されていない者は、看護師や助産師として働くことができません。NMCでは看護師および助産師に対して、多くのルールを取り決めており、一番基本的なルールは Codeと呼ばれる一冊の冊子に集約されています。「患者さんの人権を侵害しない」とか「処置内容は記録に残す」とか、そういう本当に基本的なものです。その中に、『 locally agreed evidence-based standards(英国内で根拠があると認められた)処置以外はしてはならない』とあります。また、『患者さんの自主的な選択を優先させなければならないが、その場合にはそのリスクを十分に説明し、それでも理解されなかった場合には、スーパーバイザー(それぞれの助産師がもつ相談役のような人です)およびその他のチームメンバー(この場合は当然コンサルタントが含まれます)に連絡しなければならない』、とあります。

つまり、「助産師は根拠のない処置を行ってはならないし、患者さんが望んだ場合でも、それがリスクを伴う場合は、その旨を説明し、医師にも報告しなければならない」ということです。

これらのことは学生時代に何度も強調されるので、英国内で教育を受けたものならば耳にタコができるほど聞かされています。訴訟の多い国ですから、これらのルールは、患者さんを守るとともに自分自身を守ることにもなります。

では、どのようにしてエビデンス(根拠)のあるケアを徹底するかというと、英国にはNICE(National Institute for Health and Clinical Excellence)という機関があって、そこがガイドラインを設定しています。各病院がこれらのガイドラインを目安に、実用的なレベルまで下げて、さらに細かくガイドラインを設定します。NICEでは、リサーチの奨励もしていて、常に新しいエビデンスを求めています。

例えば妊婦検診については、NICEからはAntenatal Careというガイドラインが出ていて、フルバージョンは400ページもあります。一項目を取り上げてみますが、ガイドラインによると、「ローリスク妊婦の検診は、助産師が行っても良い」とあります。そしてその根拠として、スコットランドで3041人のローリスク妊婦さんを対象に行ったリサーチの結果、健康面でも満足度でも、医師が検診を行った場合と差がなかったとあります(ちなみに英国では医師も検診時のエコーはしません)。
ホメオパシーガイドライン状の記載はハーバルメディスンとなっています)を含む、代替療法についても記載を見つけました。いくつかリサーチがなされていて、害がないものもあったが、一部のレメディーで早期破水のリスクが上がったとあります。それゆえ、妊婦さんに向けては「害がない、または効果があると期待しないこと、使用する場合は最小限にとどめること」との記載があります。




また、NMCでは、看護師および助産師がルールに従わなかった場合、その者をHearing(この場合は、調停や裁判のようなものだと思います)に召喚して、今後の処分を取り決めます。つまり、NMCが原告、看護師または助産師が被告です。被告人のフルネーム、資格番号、訴えの内容は、誰もがウェブサイトで簡単に見ることができます。先ほど見てみましたら、一日に多い日で20件ほどのhearingが行われているようです。一例を挙げますと、現在進行中のものに、『羊水が胎便で濁っているのを認めたにも関わらず、医師への報告を怠った』というものがありました。処分としては、厳しい時で免許取り消し、他には、一定期間の免許停止や、監視下での業務などがあるようです。

たとえ刑事事件にならなくても、定期的に行われる監査で発見されたり、患者さんからの苦情で明らかになったり、稀に同僚からの通報で発覚する場合のあるのかもしれません。いずれにしろ、NMCが取り決めたルールに従って働かない者は、処分の対象になるということです。

私自身が有資格者ではないので、労働上の条件等、イギリスと日本の差を語れる術がないのですが、ただ、日本では監査が定期的に行われていそうもないと感じるし、ホメオパシーや乳房マッサージ・ケアの説明についての行、日本での宣伝・発言内容のままに助産師がイギリスへ行ったら、罰せられること間違いないとおもいました。酷いケースだと、親を丸め込んだ挙句、選んだのは親じゃないかと開き直りますから。こういう助産師は、プロとしての責任感が皆無なんですよね。

日本の問題多い助産師の方が一番嫌うことなのかもしれませんが、メイさんのお話を聞いていると、イギリスの助産師の方には“医師をボスとして認めている”というのが大前提にあるのではないでしょうか。日本での助産師の問題を知れば知るほど、医療批判=医師よりも私たちの方が正しい!という意識が常に根底に流れているような気がします。これによって、『病院を頼るようなお産は女の恥』と言わんばかりの荒い意見が隠された妙なメッセージが作られてしまい、医療批判・医師侮蔑の気持ちを一般人にも植え付けてきているように感じます。

ホメオパシーを勧めている助産師が、ホメオパシーには科学的な根拠がありませんし、効果も立証されていません。ですが、効果があると信じて使っている人もいます。薬店で購入することができるので、誰でも使うことができますが、医師が処方する薬の代わりになるものではないので、処方薬があれば必ず服用して下さい。」というようなことを言っていたと、想像もできないです。聞こえてくる話は、「薬を飲んではいけない」とか、「ホメオパシーを飲んでいるのだから、好転反応が出た暁には体が良くなったことを実感できる」とか、そういうのばかりです。

また続けていきます。