小さな棺

あの小さな棺を初めて見たとき、棺の大きさに驚いた。

小さな棺が琴子には大きい…琴子は小さいまんまだったから、一番小さい棺を用意されても、琴子がすっぽり入ってしまえる大きさだった。


棺に入れるまで、琴子を何遍でも抱くことが出来た。

でも棺に入れたら抱けなくなる。

だからギリギリまで、琴子を棺に入れないように頼んだ。

子供を棺に入れたいわけがない。

私は真剣に考えていた。

琴子を剥製にできないかなって。

真剣に考えていた。

だって、二度と会えないなんて嫌だもん。

死んじゃっていても構わない、動かないってわかっているから、だからお願い、誰か琴子をこのまま手元に置いておけるようにしてくれませんか?

棺に入れてしまう直前まで、ずっとそう願っていた。


この話をある天使ママにしたら、

「子供を剥製にしたいって気持ちを理解し合えるのは、私達天使ママ同士だけなんだよね」

と言われた。

この天使ママは誰かに否定されちゃったのかな…黙って聞いてくれていればいいのにね、皆なんでそんなにいちいち正論ぶって言うのかね。


棺に入れるときは自分も入りたかった。

一緒に抱いて眠っていてあげたかった。

今でも不安になる。

リンズの寝顔を見ていると、『もしかして息をしていないんじゃないか?』って。

琴子も目を瞑ったまんまだったし、眠っているようだったから。


棺にはたくさんの思い出と、たくさんのプレゼントを入れてあげた。

たくさん…それでもまだまだ足りないな。

もっと入れてあげたかったな。

一番入れたかったのは自分自身。


琴子が生まれる前に、不器用な私としては珍しく、たくさんの手作りグッズを用意して待っていた。

そのうちの一つが旦那と競い合って作った、ブサイクなぬいぐるみ。

このぬいぐるみを作った日のことは忘れられない。

凄く楽しかった一日だった。

私が猫を作って、旦那がウサギを作った。

旦那のは目つきがおかしくて、

「そんなの、赤ちゃんが怖がるよ!」

って笑って…これも琴子の棺に入れてあげた。

もう一つがショルダーバック。

琴子を抱えながら歩くのに便利かなって、簡単な作りだったけど、リバーシブルで作ってみた。

これにはたくさんの食べものを入れてあげた。

実母が

「そんなにたくさん入れたら、琴子ちゃんには重たいよ」

って言っていたけど、天使には羽が生えているっていうから、きっと簡単に持っていけるよと、旦那とそのままたくさん入れたまま、棺に入れてあげた。


私は琴子の髪の毛と、爪をちょっとだけもらった。

今でも大事にとって置いてある。

琴子の臍の緒と一緒に、私が死んだら入れてくれって頼んである。


旦那が紙に書いて、六道銭も入れてあげた。

本物のお札を入れてあげたかったんだけど、周りの人に反対された。

でも確か、旦那が1000円札を入れていたように記憶している。

琴子はちゃんと、三途の川を渡れたかな。

お金の使い方を教えてあげられなかったから、もしかしたら途中でポイしちゃったり、誰かにくれちゃったりしたかな。

私が手をひっぱっていってあげたかったな。

ううん、手をひいてあげても良かったのなら、一緒に連れて帰ってきたかったかな…もうわかんないな、あれからの日々が辛すぎたから、手をひいて、一緒に三途の川を渡っても良かったかな…。


琴子を火葬場で見送った翌日の朝、旦那が隣の布団で泣いていた。

声を殺して泣いているつもりなんだろうけど、すぐに泣いているってわかった。

理由なんて聞かなくてもわかるけど、「大丈夫?」と聞いたら、

「琴子の夢を見た」

と言う。

どんな夢なのか、私も会いたいから羨ましくって、

「琴子、どうしていたの?」

って聞いたら…

琴子は世界一周旅行をしていたんだって。

旦那がそれを上から見ているような感じで、琴子は私達が入れてあげたたくさんの荷物を背負って、ヨイショ、ヨイショと歩いていて、

「重たいなぁ」

って言いながら、歩いていたって。

でね、「これから天国に行くから、最後に世界一周旅行をするんだ」というようなことを言っていたって。


琴子、世界一周旅行は楽しかった?

お父さんとお母さんも一緒に行きたかったなぁ。

お菓子は足りたかな?

必要なものがあったら、なんでも言ってね。

大好きだよ。