親の病

義父が癌かもしれないという。

定年退職してから、もう何年経つだろう。

それ以降も元気で、暇をもてあそんでいる。

義母と長期の旅行へも行ったりしていたし、相変わらず口は悪いし。

癌かもしれないと聞き、数日後、話を聞きに行った。

義父よりも義母の方が参っているかなっておもっていたのだけど、義父がかなり参っていた。

まだ癌と決ったわけではないけど、ついさっきまでは何の心配もなく生きているだけだったのに、まぁ、年齢から言えば、死を迎える日を意識しつつも、でもまだそれはもうちょっと先のことだろうとおもっていたのに、それが突然、現実的になってしまったようで、義父が落ち込んでいるのは明らかだった。


検査は7月末日。

あの落ち込みようでは、精神的に参って、違う病気になってしまうような気がする。

気位の高い義父は、

「気の小さい奴だったら、地獄のような日々だよなッ!」

って威勢良く言うのだけど、それは強がりとしかおもえず…

「寿命に逆らうつもりはない」

と言いながら、大好きなお酒をぱったりとやめてしまうし、なんだか痛々しい。


実は、私の実父は大腸癌。

実父は癌の疑いがある日々も、癌と告知を受けてからの日々も、検査や手術での制約がない限りは、お酒もタバコもやめない。

実母が少しは控えるように言っても、

「好きなことを我慢してまで長生きしたくない」

と言って、減らす気すら全くない。

治療は受けるけど、生活は見直さない…きっと患者としては悪い例。

でも、やっぱりストレスが溜まらないのも薬なのか、今のところ、新しく癌が発生(?)することがない。

義父に実父の話をしたら、

「そうなんだよな、俺も同じだよ」

と言って、その日より晩酌再開となったらしい。


琴子が死んだとき、葬儀のとき、納骨のとき…正直、義父には良い思い出がない。

『こういうことは闇から闇へ…』

と何度も言っていたり、琴子の納骨の日程を義母の遊び優先にして決めてきたり、今思い出しても凹ましてくれることをさんざん言ってくれた義父。

でも、だからといって、凹んでいる義父を見るのも嬉しくない。


義父のことから、旦那と話し合った。

私たち夫婦は、まだお互いの両親が健在で、これはとても有難いこと。

幼くして両親を亡くす、片親を亡くす方も多くいる中で、恵まれていたとおもう。

両親共に還暦を無事に過ぎ、もう数年も経つ。

長生きして欲しいけど、でも、それぞれがこれで十分だと心の底からおもえるのなら、私たちもそれを納得して、それぞれの生き方・死に方を尊重しましょうと。

そして、

「琴子に会ったら可愛がってあげてくださいね」

って、元気に生きているうちに伝えようかとも。

ちょっと残酷なようだけど、おじいちゃんとおばあちゃんなんだからって。

琴子も孫ですよって。

(…でも、今の義父には言えないから、このお願いはなかなか難しいかな。自分の両親には言えちゃうんだけどなぁ)