「低リスク妊婦といえども、ノーリスクなわけではない」

ご無沙汰してしまっております。
皆様からのご意見を拝読しておりました。
貴重なご意見を頂いており、徐々にまたブログで記事にしていきます。

まず、ドクターサイコさんのコメントを今日はご紹介させて頂きます。ドクターサイコさん、はじめまして。そして今回は貴重なご意見をくださり、有難うございます。(※日本語版がまだアップされていないのでしょうか、もしもURL分かるかたいらしたら教えてください、探したけどみつかりません)

こんな論文が最近出たので、琴子ちゃんママに知っていただけたらなと考えました。
外国の話ですが、何か背筋が寒くなりました。

「Perinatal mortality and severe morbidity in low and high risk term pregnancies in the Netherlands: prospective cohort study
BMJ 2010; 341:c5639」

英語なので僭越ですが要約させて頂きます
イギリス医師会雑誌で11月3日のオンライン版にのった論文です。検索で「BMJ」と入れれば、無料版のページにいけると思います。
オランダユレヒト大学での研究で低リスク妊婦から生まれた新生児の周産期死亡率が高リスク妊婦の約2倍に上っていたことが判明しました。
元々オランダは先進国の中では1周産期の新生児死亡率がずば抜けて高いことで有名です。妊産婦死亡率と乳児死亡率はヨーロッパ平均よりいいぐらいなのですが・・・。
今回の研究は、その原因についての調査です。
オランダは分娩に対して独自のシステムを持っており、妊娠初期に特に問題が認められない妊婦は「低リスク群」と判断され、分娩まで一括して助産師による管理となり、その中で異常が認められた妊婦のみ「高リスク群」として産科医の管理下に置かれるシステムになっているようです。
07年1月から08年12月までの2年間、約3万7千名の赤ちゃんの出生を観察しています。これは正期産で先天疾患のある赤ちゃんと三つ子以上の多胎妊娠を除外しています。
周産期死亡率の定義が日本とちょっと違うので単純に数字で比較できませんが、一番衝撃的なのは、その結論で「低リスク群とされた妊婦(助産師管理)から生まれた新生児の周産期死亡率が高リスク妊婦(産科医管理)の約2倍に上っていた」ことでしょう。
さらに分娩中に助産師の手に負えず産科医に搬送された場合の周産期死亡率のリスクは最初から産科医にかかっていた場合の3.66倍、赤ちゃんが集中治療を要するリスクが2.51倍になっています。まあ、これは分娩中に突然急変したケースともなれば有りうることです。
オランダは以前から女性喫煙率が高い、初産年齢が高い、人工授精による多胎妊娠が多いなどから周産期死亡率が高いのは仕方ないと言われていましたが・・・。
そりゃ、産科医がある程度非常事態を想定して待ち構えている病院と、正常分娩のみを想定している助産院とではリスク評価も単純に比べられませんけどね。
ただ、オランダでの赤ちゃんの死亡率の高さは、助産師による妊婦健診では赤ちゃんの先天疾患についてのスクリーニングが十分ではなく、その結果として場合によっては両親が人工中絶をも選択に考えるような重篤な疾患を持った赤ちゃんを分娩時まで見抜くことができず、結果として出生後も対応が遅れるためといわれていますし。
日本は今後このオランダと同じようなシステムを目指しているようにうけとれます。その結果、助産院での出産と産科病院での出産とこんなに差がつくかもしれないわけで。
大変身が寒くなる思いがしました。
論文へのコメントにありましたが、「低リスク妊婦といえども、ノーリスクなわけではない」という言葉を、無茶妊婦さんや一部の助産師達にはにかみしめて頂きたいものです。

※強調しているのは私、琴子の母です


この後に、ふぃっしゅさんからご意見を頂いています。ドクターサイコさんの訳してくださった内容を拝読し、ふぃっしゅさんのご意見の中に私の感じたことが多々ありましたので、一緒に書かせて頂きます。ふぃっしゅさん、有難うございます。

助産師の中、特に助産師教育の中では本当にオランダは「助産師のかがみ」のように扱われてきました。20数年前の私の学生時代にも「オランダでは助産師が正常分娩を扱い、医師は異常のみ。医大では、助産師が医学生に正常分娩を教える。助産師による自宅分娩がほとんど。」などなど。
ちょうど、世界中で助産師の地位の復権を求めるような時代に突入していましたから、目指せオランダという感じでした。

私もそういう内容のご意見を助産師の方や支持者から聞いていますので、“目指せオランダ”その通りにおもいます。でも今回のドクターサイコさんの教えてくださった研究結果は、その実態を報せてくれたのですね。

「正常なお産は助産師で」という言葉に縛られていた時には、自然経過を大事にすればお産は複雑にならない、だからオランダのように助産師だけで大丈夫なのだと思いこんだ時期がありました。
オランダでは助産師が扱うローリスクの妊婦でも約半数は分娩までに医療機関へ紹介になっている、という事実はなかなかどこにも書かれていませんでした。

本当です、オランダで出来ているんだから、今すぐ日本の助産師も!っていう勢いも感じられるほどでした。教育面の差はどうなんですか? オランダと日本の助産師では、資格を得るまでの教育課程や、資格を得てからの教育と、どのくらい差があるのでしょうか。オランダでは医師ではなく、助産師が医学生に分娩を教えるというのは事実なんでしょうか。

日本看護協会発行の助産師基礎教育テキスト「周産期における医療の質と安全」(2009.12月)にもオランダのシステムが紹介されています。
「産科医と助産師の担当領域が明確であるため、助産師から産科医への紹介や分娩経過中の病院への移送が適切な時期にスムーズに行われる。逆に産科医は正常な妊婦の健診や分娩を担当することはない。」と書かれていますが、ここでも具体的な病院への移行率は明確にしていません。

テキストの中で「オランダの周産期医療システムからみた日本の課題」として、「オランダの新生児・乳児死亡率は、北欧やドイツ・フランス・スイス・などと比べて約2倍と高い。その要因としてまず、オランダの初産年齢の平均が29歳と高年であることがあげられる。結果としてハイリスク妊娠出産となる確率が高くなる。また、出生前診断があまり一般的に実施されていないため、先天性異常児の出生率が多く、生後死亡する数も多い。」「このような状況から、オランダの新生児・乳児死亡率が諸外国のそれらと比較して悪いと短絡的に断言しがたいが、改善の余地はあるものと思われる」と紹介されています。

「改善の余地があるものと思われる」これを助産師の方たちが中心となった場合、どのような形でしようとおもわれているのかも伺いたいです。

日本でもすでに初産年齢のピークは30代になっていますから、オランダの周産期死亡率の特異的な因子とは言えないと思います。
来年には、ドクターサイコさんの紹介された内容も、きちんと中立的に解釈した上で助産師教育の中で教えていただきたいと思います。
「ローリスク群でも、助産師だけの管理では周産期死亡率が高くなる」ということなのですから、とても大事な事実ですね。

いや、本当にそう願います。ふぃっしゅさんの後のお言葉を先にお借りすれば、助産師の方たちが「自宅で産むこと」「助産院で産むこと」=出産に医療介入は不要だという、助産師が見守っていればいいのだという雰囲気にこの研究結果がどう反映されるのか、私も知りたいです。

まして日本のように「自宅で産むこと」「助産師院で産むこと」がお産の最終目標のようにする雰囲気が強い中では、医療機関へ適切な時期に紹介することは難しくなってしまうことでしょう。

お産の最終目的は母親からしたら、「子供が無事に生まれること」のはずなんですけどね…