琴子の記録

裁判に向けて弁護士さんと話して、私達夫婦は真実の証明でもあるビデオを見る必要が出てきた。

琴子を分娩中、琴子の生まれてくる場面を撮りたくて、産声を何度も聞けるように、大きくなった琴子にも聞かせられるようにと、ビデオを購入して、H助産所のあの一室に設置して録画していた。

あの日以来、ビデオのテープは仕舞ったままで、旦那も私も見たいとおもったことは一度もないし、今でも見たいとは思わない。

「ビデオを見てみます」

と私が言ったら、弁護士さんが

「辛い作業だと思うけど…」

と言ってくれた。

「覚悟しています」

と私は言ったのだけど、心の半分は「まだやめといた方がいいよ」って言っている。

見れば辛くなるに決まっているし、あのビデオを何度見ても、ラストは決まっている、そう、琴子は死んでしまうのだ。


うちにはたくさんビデオテープがあるのに、あの1本だけは特別な存在で、私が死んだら棺桶に一緒に入れてくれと頼んである、そのくらいに大事な1本。

琴子、こんな記録しかなくてごめんね…