妊婦の登山や運動−ふぃっしゅさんのご意見から考える その1

今日は(も?)ふぃっしゅさんからのご意見をそのままです。
登山や運動について考えている妊婦さんにそのままお届けしたいので。
ふぃっしゅさん、いつもありがとうございます。

当ブログ『妊婦にとって、どこまでを"適度な運動"とするのか』(2010-04-27)にお寄せくださったコメント、2通です。
※2回分の記事に分けます、是非、両方をお読みになってください


1通目

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日本臨床スポーツ医学会学術委員会編の「妊婦スポーツの安全管理」という本が手に入りましたので、その中から少しまとめて紹介しますね。

妊婦スポーツの安全管理基準に関する提言の中に、「妊娠前から行っているスポーツについては基本的には中止する必要はないが、運動強度は制限する必要がある」として具体的に種目ごとの制限内容が提示されています。
妊娠してから始めるスポーツとしてよく行われている水泳、ウォーキング、エアロビクス、ヨガに関しても、それぞれ欠点・注意点が明示され、特に運動習慣のない人が妊娠を機会に始める場合の注意点も書かれています。

そして以前のコメントにも書いたように、避けるべき運動として、競技性の高いもの、腹部に圧迫が加わるもの、瞬ぱつせいのもの、転倒の危険があるもの、相手と接触したりするものは避ける、とあります。
山登りや、バランスボールは、やはり避けるべきものの分類ではないでしょうか。

さらに運動を行う際の環境や、体調管理など細かなアメリカのガイドラインが紹介され、スポーツ施設で行う場合だけでなく自分の判断で自宅で行う場合にも産科医のメディカルチェックを受けることを勧めています

妊婦スポーツを行った場合についての母体、胎児へのそれぞれの影響はまだ明確にはなっていない段階であるとのことです。
胎児へのストレスは一般的には胎児心拍数から判断しますが、運動中の母体にモニターを装着しても正確な計測ができないために、「胎児への影響はわかっていない」段階です。
ただし、運動によって子宮収縮が増加することは明らかなので、運動強度によっては子宮収縮が子宮血流量を減少させ、胎児ストレスを表す徐脈がでている可能性もあること、また運動によって母体体温が上昇すると胎児体温も上昇し酸素消費量が増えることで低酸素状態に一時的になる可能性などがかかれていました。

また妊娠期間中いつまでスポーツが可能かという点では、「妊娠経過が順調であれば特に制限しない」「妊娠末期になると子宮収縮が起きやすくなるため早産に注意する必要がある」「分娩予定日を過ぎた場合には、正常妊娠でも胎盤の老化が起こり胎盤機能不全になることがあるため注意が必要」とのこと。

妊婦スポーツは「安産」(分娩時間の短縮)を期待して行われることが多いと思いますが、今のところ、分娩時間短縮に効果があるという結果は得られていないようです

妊娠中のスポーツは適切に行うことで母体の心身への良い効果もありますが、母体の運動は過度になれば「胎児へのストレス」ともなり、「過度」とはどの程度かなどの研究もまだまだ少なく、明らかになっていないのが現状のようです。


ここからは、私個人の考えです。
マタニティビクス、マタニティスイム、マタニティヨガに関しては日本に定着して20年近くたっているので、実績のある施設などであれば問題ないと思います。
バランスボールのように最近話題になり始めたものは、一般の人が実施する際の安全面でのノウハウはあっても、妊婦・胎児に関しての安全性の研究はほとんどないと考えて、取り入れるのには慎重にされた方がよいと思います。
特にインストラクターは民間資格ですから、妊娠に関する十分な知識を習得しているわけではありません
かすてらさんのような状況になった方の報告をきちんと製造元やインストラクター仲間にフィードバックして、安全管理に役立てる仕組みがあるかどうかということも大事だと思います。それがなければ、ただの商売だと思った方がよいでしょう。

もうひとつは「○○に効く」という点を、安易に信じないことが大切だと思います。
かすてらさんのバランスボールのお話を読んで驚いた内容に、「子宮のマッサージ」という表現です。通常の産科関係者であれば、「子宮のマッサージ」と言われたら、????です。何を意味しているのか全く不明です。

でも売る側は、一般の人になんとなく効いた気分にさせるネーミングなどを本当に巧みに作り出すのですね。
こうした効果に関する表現で自分が分からない場合、主治医か助産師に確認してみることが大事だと思います。
商売か本当に母子の健康に良いことかを、見極める目が必要ですね

ただし、助産師も検証されていない効果について「効く」と表現する人がいるようなので、この点は十分に注意が必要だと思います。
助産師の場合、商売であってはいけません。母子の健康に良いものであれば勧める、無意味であったり、害がある場合にはその正しい情報を伝えることが仕事です。
医療関係で「効く」という場合には、多くの調査研究を経て効果が実証されていること、またリスクに関しても研究されていることが必要です。

その視点で、もう一度臨月の登山について考えてみました。
登山によって子宮頸部が柔らかくなり分娩になる可能性があるからと勧めているようです。
では、山道をどれくらい歩いたら、子宮頸部がどの程度柔らかくなるのでしょうか?
その効果は、山道を歩いてからどのくらいで出現するのでしょうか?
1回の山登りでの効果はどれくらいの確率で起きるのでしょうか?
・・・・
ネットで見ていたら、高尾山の登山を勧めているところで、当日夜に陣発した人がいると書かれていました。
これが、登山の効果であるとすれば、「1回の効果で陣発する可能性がある」のは相当な刺激であるということもできます。
たまたま帰宅してからでしたが、効果がどれくらいからでるか検証されていいないのであれば、登山中にも陣発する可能性があるということです。
登山中には陣発するほどの即効性はないというのであれば、登山と分娩誘発と関係づけて効果をうたうのは過大な表現といえます。
実際には効果もないのにイベント的に登山させるのであれば、効果をうたうべきではないと思います。
登山と陣痛発来の関係が明らかになっていない段階で、途中で陣痛が来る可能性があることをさせることは危険であると思います。
また上記の本にもあるように分娩予定日あたりから胎盤機能も落ちてきます。そこに山登りのような身体への負荷の大きい運動が胎児にどのような影響を与えるか、ほとんど調査も研究もないと言えるでしょう。それを一助産師の判断で勧めるのは、無責任であると思います。
効果を仮説として言うのであれば、それを実証する責任があります。

この高尾山の件も、2008年のAERAに「高尾山に登って安産しようー臨月妊婦の産気誘発ハイキング」という記事で紹介されたようですね。
話題先行で、安全性が確立されていないものを、出版物が後押ししてしまったのではないでしょうか?
有名になり、引くに引けなくなってしまったのでしょうか。

でも、こうした本当に母子に安全か、有益かということの情報を整理して伝えることが助産師の本来の仕事のはずです。
同業者を批判するのは心が痛みますが、自分たちのしていることが「商売」になっていまっていないか考え直す必要があると思います

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註:強調したりしているのは私です

やっぱり、登山やバランスボールは独自の判断で行うのは危険ですね。
残念ですが、助産師の許可というのも、無責任におもえまます。
まず、助産院や自宅出産でお産をしようとおもっても、『妊娠経過中に異常があったときには病院で産むんです』『急変があったら搬送します』という説明をしているということは、"ここで完結出来ない場合がある"ということを自覚しているわけですから、責任持った判断・診断は嘱託医がするということでしょう。
『嘱託医がいる(=嘱託医に認められている)のだから、それ相当の知識や責任がある』というのは、誤った認識とおもっています。
登山とバランスボールだけではなく、散歩にしてもどのくらい歩いたら良いのか(様々な意見もあるし)、担当医(嘱託医)に聞くのは大切なことだとおもいます。
そもそも、安全を最優先しているという助産師ならば、最初から嘱託医に聞かせているでしょう。

『自分たちのしていることが「商売」になっていまっていないか考え直す必要があると思います』
もうこれに尽きています、私は。
結局、目新しいことが必要となるわけでしょう。
だって、登山なんて必要ですか?
そんなにそんなに必要ですか?
させる意味がわからない。
いくら自分達が同行しているって言ってもね、救急車ってそんなに簡単に現場に来ます? 来れます??
でもって、救急車が来れば、皆助かっています?
今までがたまたま無事だったからって、これからも皆、必ず無事だっておもっているのかな? だとしたら、余計に危険。
まぁ、これ以上は言う必要もないですよね…

多分、妊娠中の健康管理を安産を入り口としても、徹底してやっているという気持ちが物足りなさを産んでしまっているのではないかとおもうんです。
「凄いね!」って言われたって言われなくたって生きているだけで十分なのに、「登山までしたなんて凄いね!」って言われたいのではないかとおもえてならない。
安産だけが目的ではなくなっているとおもえてならないのです。
"武勇伝作り"−これを助産師が後押ししているようにおもえてならないのです。


妊婦の登山や運動−ふぃっしゅさんのご意見から考える その2』に続きます。