分娩は、終了してみないと正常だとはいえない−これから出産をされる方、ご家族の方へ

分娩は、終了してみないと正常だとはいえない

これは先日、当ブログの『機関誌『助産師』の特集記事「産科における代替医療を考える」を読んで』にコメントくださったふぃっしゅさんからのご意見より。
ふぃっしゅさん、いつもありがとうございます。
そして、こちらのコメント欄では放置医さん、AZAさんと、医師の方からも貴重なご意見を頂いています。
まめははさんも、助産師として勤められていた頃にNICU(Neonatal Intensive Care Unit:新生児集中治療室)で感じたことなども綴ってくださっています。
これから助産院や自宅出産を考えるという方には是非、ご一読願いたい内容です。

本当は全部を読んで感じて欲しいことがあるのですが、下記をご覧頂くだけでもとおもっております。
※時間のある方は是非、書いてくださった方全員のをお読みください、お願いします

NICUに勤務経験をお持ちの助産師 まめははさんより(一部抜粋)

私は助産師3年目まである病院で働いておりましたが、(都内の産科が有名と言われている所です。)助産学校から先生(助産師)に吉村医院のスライドを見て、分娩スタイルの素晴らしさを授業で学び、フリースタイル出産を積極的に学んで(学ばされて)いました。仰向けで分娩台の出産を促すと先輩スタッフや助学の先生(いずれも助産師)に叱責されました・・・
「産ませてもらうのではなく主体的なお産を促す」ことを学び、数年間は「何も医療介入がない自然なお産がいい」と思っていましたが、のちに希望でNICUに異動した時、考えが180度変わりました。
学生時代学んだことは何だったの?
自然なお産って・・・・何もしないことを勧めるのは本当にいいことだったの?
毎日葛藤でした。
NICUでたくさんの管に繋がれる生後間もない赤ちゃんや生後数時間で亡くなってしまった赤ちゃん。分娩室や産科病棟に通っては分娩中のモニター記録を見返していました。
どうしてここで頑張っちゃったの・・
もう少し早く医師に連絡をして欲しかった・・
NICUから見ると思うことはありましたので、ましてや自宅・助産院では一体どうなっているのか。考えると恐ろしいですね。

無理をしてまで「自然」を追い求め、産婦さんに推し進めるのは助産師の自己満足です。赤ちゃんや産婦さんの安全・命は二の次・・・
お母さんたちは赤ちゃんによい、と言われるものは取り入れるはずです。それも専門科から言われればなおさら。。だったら「赤ちゃんにいいもの」は「赤ちゃんの安全」のはずですよね。全てのことに根拠を持って正しいことを、正しい情報をお母さん達に勧めて欲しいです。

こちらではLDRが主流ですが、日本人が通う私立病院の1つには水中分娩を推奨する病院があり、私は相談を受ければ「赤ちゃんの安全のためにはどうしたい?」と問いかけています。

勤務助産師のふぃっしゅさんより(一部抜粋)

教育、本当に大事だと思います。
「正常分娩は助産師だけで介助できる」ことを誇りとして教えていることが、そもそもの間違いだと思います。
「分娩は、終了してみないと正常*1だとは言えない」こちらを基本とした助産師教育にすることがまず必要だと思いますね。

自分を振り返ると、自然教にはまった時期は中途半端な経験の年代で、根拠のない自信に満ちていました。
だんだんと怖いお産にあたり、何年やっても自分の知識も技術も経験も未熟であることを思い知らされる毎日です。

開業や院内助産院をすすめる教育者や、マスコミなどでカリスマ的に紹介される助産師たちは、どれだけの分娩介助経験があることでしょう?
するっと産む経産婦さんをたくさんとりあげても、真の分娩の経験にはなりませんね。
助産師の方向性や教育に影響のある人たちが、分娩というものを本当は知らないのではないかと最近思います。
怖さを知っていれば、一部の助産師の自然への偏りをたしなめることができたはずですから。

助産師学校の教育の重要性とともに、卒後の資格のあり方が問題だと思います。
一度とった助産師免許は、何の努力も制限もなく、一生助産師として使えます。
おそらくままははさんやらんさんは、復帰にとても不安をお持ちだと思います。
私の周囲でも、病院で働いていても実際の分娩介助から離れると、こわくて産科病棟に戻れない助産師がけっこういます。
今のままでしたら、そうした助産師や出産・子育てで臨床を離れた助産師は、新生児訪問や母乳相談で「助産師」を続けます。
離職した助産師の技術サポートが不十分なため、結局は自分の子育て経験と代替医療民間資格でとりつくろうしかないのだと思います。

育児相談、母乳相談ももちろん大事ですが、分娩介助がやはり助産師業務の中心になると思います。
医療施設(助産院を除く)から離れている助産師には、数年ごとに周産期医療の知識と技術のアップデートを図るような研修を行い、それを受けた場合のみ助産師免許を更新できるようにする、など厳しくすることが必要ではないかと思います。
厳しくても、実際に復帰したい意欲がある人にとっては、システム化された研修制度で自信を取り戻すことができるのではないでしょうか。

開業権も同様です。
ローリスクの安産の人を対象とした分娩介助は、助産師の対応する業務の中のごくごく一部でしかありません。
分娩のための開業権は、母児のハイリスクをどれだけ経験しているかなどの条件付けを厳しくするべきだと思います。
母乳相談のための開業権も同様で、○○式乳房マッサージのような検証されていない方法や育児に対する考え方を前面に出すことの是非を議論した方がよいと思います。標準的な内容を助産師が明確にしなければ、結局はお母さんたちに混乱をもたらしているだけですね。


「異常分娩がわからなければ、正常はわからない」助産師学校の恩師の言葉です。わたしは今になって、こう教えてくださった先生に、本当に感謝しています。

医師(NICU勤務)のAZAさんより

ふぃっしゅ 様 皆様

「分娩は、終了してみないと正常だとはいえない」
何とも,奥の深い言葉です.私はNICUに勤務しているので,これは痛切に感じます.安全だと思って自然分娩でしょ!と思ったけど,出ない,結局は緊急帝王切開,なんてことはまあ経験します.生まれてみなければわかりません.これはすべての産科医・新生児科医の常識です.でも一部の助産師さん(産科医でもいるのですが・・・)で,理解されていない方がいるのは残念です.

この言葉は,周産期医療の格言として一般の方にも広めてほしいものです.

*1:後の訂正に併せ、管理人により修正