腕の中の…
私の生まれ育った町には、いつもぬいぐるみを抱いているおばあさんがいる。
私の親よりも一つ上の世代で、まだまだ元気に町を歩いて過ごしているのだけど、いつもぬいぐるみを抱いている。
もうぬいぐるみはボロボロ。
それでも大事に抱いていて、おばあさんとぬいぐるみの関係は、完全に一体化したようにも見える。
おばあさんの息子さんは、40歳で他界した。
それ以来、ぬいぐるみをずっと抱いている。
おばあさんの腕の中にいるぬいぐるみは、40歳でこの世を去った、息子さんなのだ。
町の人たちは皆、おばあさんが抱いているぬいぐるみが誰なのか、誰の代わりなのかを知っている。
いつも誰かと立ち話をしている。
琴子が死んでしまい、メモリアルベアの存在を知った。
天使ママさんたちの中には、亡くなってしまった天使ちゃんと同じ身長と体重のぬいぐるみを持ち、大事にしている方がいらっしゃる。
手作りで洋服を作ってあげたり、どこへ行くにも一緒で、記念写真を撮っていたり。
琴子は嘘の身長と体重しか記録にないから、私には作りたくても作ることが出来なかった。
いつもはぬいぐるみなんてガラじゃないんだけど、琴子の代わりに欲しかった。
その気持ちが通じてか、天使ママさんたちからぬいぐるみが届くようになり、今では何体ものぬいぐるみが私を見守ってくれている。
よく、あの郷里にいるおばあさんを思い出す。
思い出しては、涙が滲む。
悲しいという気持ちより、優しい気持ちに包まれるような、そういうときもある。
そういうとき、琴子の存在を感じている。
今度帰省したら、あのおばあさんに会えるかな。
今度は、勇気を出して、話し掛けてみようかな。