VBAC/米国の状況

昨年になりますが、当ブログ>最悪なる「親の自由」 ※12/21修正ありがきっかけで、ドクターサイコさんが「2010年アメリカ産婦人ガイドラインの日本語要約」として、メディカルトリビューン出典の情報をくださいました。有難うございます。

米国産科婦人科学会
改訂ガイドライン帝王切開後経腟分娩の適応基準を緩和
〔ワシントン〕米国産科婦人科学会(ACOG)は,帝王切開後経腟分娩(VBAC)の適応基準を緩和した改訂ガイドライン“Practice Bulletins Obstetrics #115”をObstetrics & Gynecology(2010; 116: 450-463)に発表した。旧ガイドラインでは帝王切開の既往が1回であることをVBACの適応基準としていたが,改訂ガイドラインでは既往が2回の妊婦に対しても,諸条件を満たせばVBACを考慮できるとした。


高い帝王切開率に懸念
 ACOGによると,米国では過去40年間に帝王切開による分娩率が1970年の5%から2007年の31%へと劇的に増加した。
 1970年以前には,帝王切開既往例の場合,次回分娩時も反復帝王切開が標準的とされていた。しかし,70年代にVBACの成功例が増えると,一部の妊婦でVBACが分娩の選択肢として考慮されるようになった。その後,VBACによる分娩率は85年の5%から96年には28%まで上昇したが,それ以降は徐々に低下。2006年には8.5%にまで落ち込んだ。
 
この低下の原因としては,一部の病院や保険会社で帝王切開後の妊婦を対象とした普通分娩の試行(trial of labor after cesarean;TOLAC)に関する説明を制限するようになったことや,リスクと便益について説明を受けた結果,TOLACを断念した妊婦がいたことが考えられる。

 ACOGのRichard N. Waldman会長は「現在の帝王切開施行率の高さは,産科婦人科医にとって大きな懸念材料の1つである」とした上で,「今回のVBACガイドラインでは,(1)便益とリスクに関する徹底的なカウンセリング(2)妊婦と医師がともに意思決定にかかわること(3)妊婦の自律性—の重要性が強調されている。今後は妊婦,医師,病院,保険会社の協働の下,帝王切開の施行数が減少に転じるよう働きかけ,適切なVBAC施行率を維持する必要がある」と述べている。


帝王切開既往2回の妊婦にも考慮
今回のガイドラインでは「子宮下部横切開による帝王切開の既往が1回の女性のほとんどにVBACの適応が可能で,VBACに関するカウンセリングが行われ,TOLACが選択肢として提示されるべき」とする旧ガイドラインの推奨に加え,改訂ガイドラインには子宮下部横切開による帝王切開の既往が2回の妊婦や,双胎児を妊娠している妊婦,子宮に原因不明の瘢痕が認められる女性でも,TOLACを考慮すべきことが明確に記された。
 
さらに,同ガイドラインは「分娩方法を選択するに当たっては,医師と妊婦の両者でVBACの成功率とTOLACに合併しうるリスクの両方を勘案し,さらに妊婦の将来の出産計画も考慮した上で検討すべきである」としている。
 
ACOGによると,VBACの成功率は約60〜80%である。VBACが成功すれば,腹部の大手術を回避でき,出血や感染のリスクを下げ,産後回復期間を短縮できる。また,妊婦が将来的に子宮摘出を必要とした場合や,腸および膀胱の損傷,感染症胎盤異常(前置胎盤や癒着胎盤)などが発生した場合に帝王切開を行う可能性を考慮すると,複数回の帝王切開を施行するリスクの軽減にも役立つとしている。
 
一方で,反復帝王切開とTOLACのいずれにおいても,母体出血や感染症,手術による損傷,血栓,子宮摘出,死亡などのリスクはある。TOLACによる母体損傷の大半は,経腟分娩が失敗に帰し,反復帝王切開が必要となった場合に起こる。VBACの成功例では選択的反復帝王切開に比べて合併症は少ないが,TOLACを選択したものの経腟分娩が失敗した例では選択的反復帝王切開に比べて合併症が多い。
 
TOLAC中の子宮破裂の発生率は0.5〜0.9%と低いが,発生した場合は緊急事態となる。ACOGは「経腟分娩を最も安全に行えるのは,緊急帝王切開を行えるスタッフがそろっている施設である。しかし,そのような医療資源がすべての施設で確保されているわけではないのが現状である」としている。
 
なお,ACOGは「VBACを制限する方針を掲げる病院であっても,女性が意思に反して反復帝王切開を強制されるようなことがあってはならない」との姿勢を示しており,「出産前の検診の段階で,VBACを希望する女性の希望に沿えないと判断した医師は,妊婦を別の医師や医療施設に紹介することが望ましい」と述べている。

ドクターサイコさんがメールでくださったご意見もご紹介させて頂きます

ポイントとしては、2000年代に落ち込んだVBAC率を、再び基準緩和して上げていこうという感じになっています。
アメリカでは、ある程度、VBACのリスクとベネフィットが見えてきて、ようやく医療者側も落ち着いて患者に説明と医療提供できる体制が整ってきたということでしょうか。
しかし、注意しなければならないのは、アメリカでは保険契約の内容によって、最初から受診できる病院や選択できる治療法が限られていることです。
又聞きなので未確認ですが、低所得者をカバーするメディケイドはVBACをカバーできないらしいです(本当ですかね?)
また、VBACの提供できる病院は限られます。
さらに、アメリカでは、正当な事情があれば、病院が患者の診療を拒否できます。
この場合の正当な事情とは、経済的事情や保険の問題も含まれます。
日本では、まずあり得ないですね。

まあ、保険会社としては、母体死亡率が多少上がっても、カイザーの件数が減るほうがもうかるみたいですが。
アメリカでは、治療方針を決定するのは患者でも医者でもなく、残念ながら保険会社となっています。
私の知人で、保険会社の定めた範囲を離脱した医療を提供したドクター(もちろん彼は患者に良かれと思ったやったわけですが)が、保険契約を打ち切られ、廃業したという話も聞いています。
何とも言えない話です。

日本の話に戻りますが。
なぜ、日本では経膣出産に比べてカイザーがそんなにさげすまれているのか、私にもわかりません。
確かにカイザーでは母体の負担は半端ないです。致命的となりやすい合併症(肺塞栓や羊水塞栓など)はカイザーのほうがはるかに多いですし。
まさに「子供のリスクをすべて母体が引き受ける」出産ですね。
分娩後はカイザーだったお母さんのほうが、はるかに大変なんですが。
経膣分娩は日本人好みの「ど根性出産」だからでしょうか???(笑)

同僚の産婦人科医と話していてちょっと気になったのが、妊婦さん同士だけでなく「義母や親せき」にいやなことを言われたという体験の方が結構いる、ということです。
一方ご主人にそのように言われた人は、少ないようですね。
これは、「素人が自分の経験で偉そうにしゃしゃり出てくる」日本特有の現象なのではないですかね。
医療体制が整っていなかった頃は、これも大切な役割があったのでしょうが・・・。
新米パパになる人達こそ、ぜひ正しい知識をえて新米ママを支えてほしいものです。

私は前回帝王切開だった方が次の出産で経膣分娩をするということをVBACというと知ったのは、琴子の死を通じてですが、琴子を妊娠中に、H助産師が自分の過去に受けたお産で、「帝王切開だった人でも大丈夫」と話していたので、「帝王切開の後でも下から産めるんだ!」と単純に記憶はしていました。その危険性や実態を知らなかっただけです。
琴子が死んでしまったことで、出産が悲しい結果を産み、遺族となってしまった方たちと出会った中で、奥さんをVBAC、子宮破裂で亡くされたというご主人と出会いました(当時はその経緯を記されたHPがありましたが、今は消去されていてご覧いただけません)。当時私が持っていた「本当に必要な母子手帳」というHPへのリンクのご依頼を頂いたのがきっかけだったのですが、そのくださった自己紹介に「妻がVBACで出産し、子宮破裂して亡くなりました」というようにあったのを見たときの衝撃は相当で、そのメールを受信していたときには天使ママとほぼチャット状態でメールをしていたのですが、「ごめん、今、凄くショックな内容がきたので、後で改めるね」とメールを送ったのを覚えています。
その後にも、ある助産院のHPに「VBAC受付可能」みたいなのがトップページに堂々とあると知り、助産師会にも通報して、助産師会がその助産院へ直接出向き、危険な行為だから即刻止めるようにと注意促したところ、その助産師は止めるつもりはないと突っぱねたそうで、助産師会からは除名となったということもありました(今ではHPもないので、現況が確認出来ません)。多分、H助産師やこの助産院だけではなく、他の助産院でもVBACを「前回の出産から3年以上空いている」「胎児の大きさによる」等の条件次第では受けていたようには感じます。
医師の方からも「アメリカではVBACはおもっていた以上に危険だということで減ってきている」と伺っていたりもしていたので、私は複数の情報から「VBACは危険な行為」とおもうばかりです。これは今でも変わりません。
しかし、今回ドクターサイコさんが教えてくださった内容からだと、アメリカでは母子の安全性というより、多分お金の話が一番の理由とおもわれますが、VBACがまた段々と増えてきているということで、結構残念におもっています。日本ではこのような情報がどのようにして浸透していくのかも不安です。もしかしたら、「お金のために」というところが「子供のために」と替えられたりして、「やはり経膣分娩の方が良いのだ」などとされてしまうこともあるのではないかという想像は簡単に出来ます。


ちょっと話がVBACからそれますが、ドクターサイコさんの
さらに、アメリカでは、正当な事情があれば、病院が患者の診療を拒否できます。
この場合の正当な事情とは、経済的事情や保険の問題も含まれます。
日本では、まずあり得ないですね。

にも興味深く…「LUPOのパワー全開な日々」、書籍などでも有名な産科医のLUPOさんの底の無い沼 ニッポン。今回のお話では主となった少女は貧困という問題を抱えているということもありましたが、当初、このお話をLUPOさんがツイッターでされたときには、無介助分娩で飛び込んでくる方たちのお話や、他にも諸々と衝撃的なお話を伺うことが出来ました。駆け込み分娩の妊婦をタクシー運転手が病院の前に黙って置いていってしまうことなどもあったり、沢山の問題を知りました。


再度、ドクターサイコさんの
日本の話に戻りますが。
なぜ、日本では経膣出産に比べてカイザーがそんなにさげすまれているのか、私にもわかりません。
確かにカイザーでは母体の負担は半端ないです。致命的となりやすい合併症(肺塞栓や羊水塞栓など)はカイザーのほうがはるかに多いですし。
まさに「子供のリスクをすべて母体が引き受ける」出産ですね。
分娩後はカイザーだったお母さんのほうが、はるかに大変なんですが。
経膣分娩は日本人好みの「ど根性出産」だからでしょうか???(笑)

で私もVBACの話に戻りますが、帝王切開をさげすさむ人も許せませんが、帝王切開であることだけで出産の被害者となるようなシステム(?)を作っている方たちも結構、許せません。帝王切開も経膣分娩も、問題は「子供は無事か?」というところに親としては心を置くべきだと思っていますので、結果がよろしければ、出産のことは過去のこととしてどんどんと前進して行って欲しいのですが、どうもそうでもない方たちもいます。ちょっとアメリカの現況を知りたいという今回のお題目からは外れて行ってしまうので、今回はここらで終わらせますが、まぁ、色々とおもうわけです。