誰のための記事なのか?

世の中、不思議なことは多いけれども、これもそのうちの一つというべきか。
何故か、助産院での出産を推奨するような記事には「医療批判」がチラつく、という不思議。

本日は朝日新聞デジタル:赤ちゃんを「ツルン」と産みやすく - 北海道 - 地域から。

私が勤務する旭川には、母子の健康維持と自分らしい出産を尊重することで知られる道北唯一の入院施設付き助産院「あゆる」がある。

とあって、産む側からしてみると、唯一というのはこのエリアにある助産院が一軒だけという以上に、「他の施設は母子のため、自分らしい出産はさせてくれない」という印象も残るような気がします。そして、後にやってくる

 治療や帝王切開などの医療行為はできないが、あゆるでは、病院なら数分で終えてしまう産前健診に1時間かけ、出産前後も日々の生活から食、運動、家族関係、悩みの解消法に至るまでじっくり相談にのる。

というものによって、その印象が確信になってしまうような気がしました。
特に、

病院なら数分で終えてしまう産前健診

があまりにも強い。そして、酷い。
なぜ、病院では健診にそれほど時間を掛けられないのか? とは、この文体は語ってない。

私が助産院に通っていた頃、確かに健診の時間は病院でのものと比べれば長かった。当時はそれこそが助産院の醍醐味的に思っていたところもあるから、長く話してくれることで安心感を得ていたわけだが、要するに、あれは時間を掛けて洗脳していたようなもの。いかに自分がすごい腕前なのかとか、出産がいかにラクなものなのか。そして、病院で産むのは残念なことだという話題。
さらに、今回の記事でもはっきりと

家族関係

とあって、それについての悩みの解消法にも答えてくれるように書かれているが、これが非常に厄介なことで、もしもこのあとに出産で悲しいことがあった場合などに、その家族関係の内情を知っている分、あたかもそういう家庭環境が悪いことにも原因があったかのようにして責任逃れをするようなケースも実在している。あと、事細かに知られていることや、そこでやたらと身内的な関係になってしまったことで、問題を追及しにくくなっている方もいる。そこまで立ち入る必要があるのか? ということを助産師側も考えるべきだけど、向こうは商売だから、そういう関係があたかもベストとしている以上、「あなたの悩みならなんでも聞くわよ」っていう姿勢は崩さないでしょうね。

それでいて、「DVの問題は聞かない」っていう助産師も以前、いたなぁ...それこそ、何とかしてあげて欲しいと思ったものです。

出産時は分娩台を使わず、入院部屋を兼ねた畳敷きの場所で自ら望む姿勢で産むことができる。

畳の上の問題点については『出産と感染症』、自宅での水中出産についてでも触れていますが、“畳の上”になんで憧れるのか? 大体、今、家に畳の部屋がある、畳の上に布団敷いて寝る生活をしている人がどのくらいいるのか? と聞きたくなるくらい、助産院、自然派は「畳」を使いますね。「畳の上で死にたい」ともよく言いますが、要するに、病院を否定しているわけです。

畳の上で、自分の望む姿で産むことが良いことのようにしていますが、そこで思い返されるのが、産科医療補償制度の問題。助産院で出産する人も産科医療補償制度に加入しているのが基本だとおもいます。産科医療補償制度の約款の中に「別表第一 補償対象基準(第三条第一項関係)」(5ページ)をご覧いただくと、

胎児心拍数モニターにおいて特に異常のなかった症例

とあります。以前より、助産院での産科医療補償制度のための胎児心拍モニターの装着はどうなっているのか? という疑問も私の中にはありまして(「2011年版 助産所評価ハンドブック」から (6)

今回の記事だとモニタ装着はしていないような印象が私には生じてしまいますけど、実際はどうなのでしょうか。記事ではやたらと自然に産むことを讃えているようですけど、モニタ装着はしてくれているのでしょうかね。
「補償対象基準(個別審査基準)に関する参考事例」の下部“補償対象の事例(個別審査基準に該当するケース)”

●参考事例 ― 2
自宅にて突然に分娩が開始し、救急を要請した。救急隊が医師の電話による指示のもと(分娩機関の管理下)、児を娩出した。分娩中の胎児心拍数モニターおよび臍帯動脈血ガス分析値など、補償約款に記載されている低酸素状況を示すデータはなかったが、救急隊が記録した処置・分娩経過表等をもとに、分娩中に所定の低酸素状況が生じていたことは明らかであると判断された。ると判断された。

のようなこともあるから、モニタ装着は義務ではない! なんて考えがこの世にあるのだとしたら、すごく無責任なことだと思います。こういうことについて、助産院や自宅で産むという方は事前に助産師の方にきちんと聞いてみてください。


話が前後しますが、朝日新聞デジタル:赤ちゃんを「ツルン」と産みやすく - 北海道 - 地域の最初の方で

「妊婦さんだからと特別にすることは何もないんです。食も運動も本来当たり前のことをやるだけ」

と、今回の取材対象となった助産師の方が語っているのが気になっていたところ、後半部分で

北田さんは、女性が自然に備えている「産む力」に着目。適度に食べ、動き、眠るという太古から繰り返してきた日常生活がきちんとできていれば、健康で自然な出産の確率が高まると考える。

とあって、ずるい! と思ってしまいました。最初は「特別にすることはない」と敷居を低く感じさせていたのに、「本来当たり前のこと」というのは、現代社会においてはかなり特別なこととなっているのが

「ツルンと健康に赤ちゃんを産みやすくする基本」

とまで言われていて、“基本”というのが産む側としては気になりますよね、知っておかなくちゃって。たばこや運動に関しては、確かによく聞く話だから基本的なこととおもって間違いないでしょうけど、食事に関しては、「白砂糖」と「食品添加物」について、これらを「基本」という括りで国家資格の名の下で語って良いのか? と疑問。
まぁ、まず白砂糖は自然万歳は嫌いですね。
「白いもの」は悪なのです。小麦粉も白いからダメで、アレルギーの問題もあって、よく槍玉にあげられます。なので、「小麦粉は白くない全粒粉を」となるんですね。お米も白いと栄養価はぼぼゼロ! と言って、そこから玄米の話が始まる。今回の記事(助産師の方)は白砂糖だけですが、1時間はかけているという健診の中で、これらの話がどういうものとなっているのかも気になります。

添加物に関しての

食品添加物も妊娠時は特に注意。催奇形因子など遺伝子を傷つける有害物質が胎児の生殖器にたまりやすい。

に関しては、「懐かしい!」と激しくあの頃を思い出すことができました。そうなんですよ、今回の記事では「胎児の生殖器」と書いていますが、胎児にしかたまらないということにはならないはずで、それで「現代人には不妊症が多い」ってよく話していました。これは根拠がどこかにあるようでしたら教えていただきたいものです。ただ、残念なことに、根拠ということに関しては、
“科学で証明出来ないことを理解できる私”は“あなたとは違うんです”という問題もあるので、根拠を出せ! とか、そういうことではなかなか解決できないのが問題でもあるのです。
でも、そこまでいってしまう前に、このような世界ではかなりの優等生だったろう私であっても子どもが逆子になってしまった(白砂糖徹底排除していたけど、冷えていたんでしょうかね? :逆子は冷えるからなる論*1)とか、助産院で産んで子どもが死んだとか、何かあったら病院に搬送するっていうのは実際にはしてくれないことが多いとか、畳の上で産むことはちっとも重要じゃないとか、そういうことをきちんと知って、そして一体何が一番大事なのか? 自分のやりたいポーズ、産み方なのか? 子どもの命や、無事に生まれてくること、生きていく上で極力障害の残ることは避けたいという願いではないのか? と考えてみて欲しいです。多分、「こういう場所で産みたい!」とおもっている方にとっては、たまに不幸になる人もいるらしいけど自分は順調で、どうせ大丈夫だからという気持ちがあるでしょうけど、それでも子どものことを一番に考えれば「最悪の事態に備える」ということをよく考えておくべき。妊娠、出産はファッション感覚で考えてはいけない。それなのに、一度流れ出した「妊娠と出産のリスク軽視」はなかなか止まない。いまだにマスコミにはこうやって「なんちゃって的」な話にまだまだ「すごい人発見!」と群がる流れがある。記事広告ならばまだしも、純記事だとしたらば科学的根拠、裏付けに対しての責任も持って欲しい。
これからもしばらくは助産院で産むこと(<自宅出産<無介助分娩)こそが素晴らしくて、「病院では私たちは大事にされない!」と印象付けるものと根気よく向き合って、その根底に「子どもを無事に産みたい」という願いがどれくらいあるのか? と問い掛けていかないとならない。

こういう記事を読むたびにおもうのが、「一体、誰のための記事なのか?」ということ。
私としては正直、産む側の、特に、胎児の安全のためとは言い難い。産む場所を考えている方にはこういう記事を読むたびに、その記事が私たちの視線をどこに向けようとしているのか? 一度立ち止まって考えてもらいたい。

*1:逆子は冷えが原因というのを扱っているブログ記事があって...
逆子の原因は、実は「体の冷え」にこそあり(★★開運マルモリ面白書評倶楽部!★★)
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③医者が帝王切開の理由にする

 逆子の場合、無理矢理に赤ちゃんを引っ張り出さなれば、時間はかかるが、赤ちゃんは手をクロスしてちゃんと出てくる。赤ちゃんも自分が死なないように出てくるのだ。しかし、無理矢理に引っ張り出すから、死産になる確率が高まってしまうのだ。特に医者の場合、逆子と解れば、必ずといっていいほど、帝王切開手術をしかけてくる。医者には逆子を安全に取り出すテクニックがないために、安易に帝王切開手術にしてしまうのだ。医者にとっては、自然に出産されるより、帝王切開手術にした方が儲かるから、どうしても帝王切開手術をしたがるのだ。

 助産院で出産したとしても、その助産婦に逆子をうまく出産させるテクニックがないと、難産になってしまうのだ。逆子の場合、自然に待った方がいいのだが、やはり助産婦たちも人の子で、手を出したがるのだ。助産婦が手を出す場合、出てきた赤ちゃんを回転させながら出させればいいのだが、この出産の仕方は、経験を積んだベテランにならないと、うまく習得できないのだ。妊婦にとってみれば、助産婦の当たり外れが大きくなってしまうのだ。
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という、かなりの問題内容っぷり。これについてはまた別記事にしたいと思っています。