その傷を、痛みを乗り越えたことを誇って欲しい

帝王切開による肉体的な苦痛や、術後にすぐに始まる育児に問題が生じることも理解しています。それはとっても辛いことだとはおもいます。帝王切開を楽観視するばかりでもありません、軽視しているつもりもありませんが、しかし、VBACの問題からずっと、切なくて悲しくて、そして愛しい記憶が生々しく甦りました。

私は琴子を帝王切開で出産すればと、今でも帝王切開を避けてしまったことを悔やんでいます(病院によっては初産の逆子でも経膣分娩を検討、可能な施設もあるとは聞きますが、栃木県内では多分、無理ではないかとおもいますし、足からだったので、そのような施設でも帝王切開になっていただろうとおもっています)。自分の子どもが自分の選択で死んでしまった後に、こんな私のことでも「同じ天使ママじゃない! 一緒に話そう!」と、励ましてくれる多くの天使ママの存在が当時の私の一番の救いで、大袈裟ではなくて、本当に主人よりも親よりも、誰よりも私を理解して励ましてくれて、そして一緒に泣いてくれました。その大勢の天使ママの中に、胎盤剥離が主ですが、緊急帝王切開でお子さんを亡くされた方もいました。時々このブログ上でも話しておりますが、一人の天使ママは妊娠中毒症(妊娠高血圧症候群)で入院して退院したその直後、自宅に戻る途中で急激な腹痛で救急車により搬送されたそうです。緊急帝王切開が必要となり、医師たちが子供を救ってくれようとしている中で、帝王切開の承諾証へのサインを求められ、痛みや恐怖から震える手で、手術台に横たわりながらサインをしたそうです。そして、そのサインを書き終えたとほぼ同時に、まだ麻酔も効いていない内に、切開が始まったそうです。そう、麻酔の力を待てなかったのです。「でも子供を助けてくれようとしていたことが分かっていたから、痛みも何もかも我慢できた」と話してくれました。しかし、子供は死んでしまったのです。だから私たちは天使ママとして出会ったのです。
別の方です。この方も胎盤剥離で緊急帝王切開、お子さんは残念にも天国へかえりました。この天使ママの言葉で印象的なのは、
「私は寂しいけど、子供は寂しくないとおもう。だって、私の子宮と一緒にお空にかえったのだから」
−そう、とっても残念なことに、最終的に母体を救うために、子宮も一緒にとるしかなかったのです。
他の方でも子宮と一緒にお子さんを亡くされ、第一子でのことだったので、二度と子供を授かることが出来ないという方がいました。この方はご自分の体験をHPで話されていたのですが、当時はまだブログとかよりも掲示板というスタイルが多く、その掲示板に同じように子供を亡くした方が書き込んでいたのだけど、結構大勢が集まるHPで、中には時々、悪気はないのだけど同じ天使ママから「次の子を早く授かりたい」という気持ちを書く方がいて、そうすると同じような天使ママがその話題に集うようになりました。あるとき、HPを作った天使ママは黙ってHPを閉鎖されました。その頃、私とも少し個メールでやりとりがあったので、どうしたのかと聞いたら、「自分では子宮のことも子供のことも受け入れて生きていく覚悟をしていたつもりだけど、次の子供を授かれないことを感じてしまうのが辛くて」ということでした。
第一子だから辛いわけではありません。子宮を失くされた方で、上にお子さんがいらっしゃると、子供を通じた社会との繋がりがあり、保育園や幼稚園、学校での集まりなどで他愛無い話をしている中、「また子供を産めばいいよ」と言われると、「もう私には産めないのに!」と、心の中で叫んでいるというお話もありました。お腹の大きな日々を知っている方には子供を亡くしたことまでは話しても、子宮を失くしたことまでは話せないでいるという方は結構多かったです。
帝王切開のお腹の傷をみて「子供との唯一の思い出」と語る天使ママもいます。勿論、傷を見ては思い出してお風呂で旦那さんに気付かれないように泣いているという方もいました。「だから一生、お風呂では泣いているんだろうな」という言葉も印象強く残っています。彼女は今でもお風呂で泣いているのかな、一人で泣いているのかなって、思い出しては泣くのを我慢しています(だって、町を歩いていて急に泣き出す大人がいたら、自分でだって困るもの)。


私は妊娠、出産については極端なことを言う人間なのかもしれません、理想も過激で過剰なのかもしれません。でも、やはり出産する女性が一番大事にするべきものは、子供の命だとおもっています(母親に持病がある、胎児の成長により難しい選択を迫られることもあるとおもいます、そのような事情をここで含めるつもりはありません)。
子供の無事を一番願って欲しい。産み方も産む場所も、子供を無事に産むためであって欲しいのです。


私はまた帝王切開について書くつもりです。VBACについても気になる資料を頂いたりしてもいますので、書きたいことはあります。帝王切開で出産したことを“負け組み”かのような言い方する人もいて、残念なことに、帝王切開経験者自身がそうおもっていることも多くあるし、助産院の問題には直接関係ないようだけど、でも「病院で産まないようにするために」と、宣伝文句で妊婦集めをしている現状から、病院で産むこと自体を負け組みにしているような風潮もあるので、私には無関係な問題ではないのです。だからまた書きますが、今日、私が一番強く伝えたいことは、
私の知っている天使ママさんだけかもしれませんが、

帝王切開しても間に合わずにお子さんを亡くされた方は、帝王切開の術後の痛みを熱心には語らない

ということです。

ご理解、頂けますでしょうか。私にはあの頃を共に過ごしてくれた天使ママ達に恩返しが出来ないけれども、せめて勝手に代弁させてください。「子供が無事で元気なら、それだけでも幸せではないですか?」と。