逆子の経膣分娩について

これから助産院や自宅出産を選ぼうとしている方の中には、妊娠経過中に逆子になる方もいらっしゃるとおもいます。
助産師会では逆子の扱いは禁止としていますが、実際にはどうだろう…という疑う気持ちが私にはありますので、妊娠している方の知識や意識の問題の改善もして欲しいとおもい、いつもコメント欄まで全て読んでくださっている方には重複する内容となってしまい申し訳ないのですが、今回はコメント欄を丸々というわけでもないけど、かなり“コメント欄の写し(移し)”まして、この問題、現状を知ってもらえたらとおもっています。

基は当ブログ『帝王切開が最後の切り札になるわけではない』です。

いつも産科医の立場としてご意見くださるsuzanさんから

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わたくしが研修医だった平成年代はじめころは
逆子であっても自然分娩の方針のお方はいらっしゃいました。
赤ちゃんが大きすぎないとか、赤ちゃんの姿勢が単でん位(単臀位で検索してみてください/琴母より)であるとか
いくつか条件はありましたが。
逆子の自然分娩はそれほど珍しいものではなかったのです。

ただし、逆子のお産は時間がかかります
頭がしたなら頭が見えてきたら「そろそろ生まれる」ですが
逆子のお尻が見えてきたら「さてこれから」です。
陣痛がきたらお尻を押さえて赤ちゃんが飛び出さないように
赤ちゃんの体を使って産道を広げるように、押しもどす。
初産婦さんならこれが一晩続くこともあります。
赤ちゃんの心拍はもちろんモニターしっぱなしで
心拍変化が少しでも怪しいときは帝王切開に切り替えです。
いよいよ抑えきれなくなって赤ちゃんの足を持って引っ張る瞬間はとても緊張しますが
うまくつるんと出てくれると、苦労しただけ喜びもひとしおでした。

こういう時間をかけた丁寧なお産は、
今の医療資源(はっきり言えば産婦人科医の数)の少ない時代には無理なのでしょう。
「逆子イコール帝王切開」と決まっている施設は、年々増えているようです。
逆子の自然分娩は、何かあったときの準備をきちんとしてのぞめば
決して危険なものではない、はずだったのですが
「準備」の段階で不足とあっては仕方ないと感じます。

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次はsuzanさんのご意見を読んだ私からです。

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ご意見を読んでいて思い返されるのが、琴子を出産する前に、助産師が
『逆子の方が簡単だ』
という説明の中で、当時はまだ足位とは分からないときだったのですが、足からでも簡単だという話があったことです。
指などを足に見立てて説明をしていましたが、足が出てきたら引っ張り出すだけだというような説明でした。
でも実際は、足、身体が出て、琴子の顎が引っ掛かったようで、琴子の全身の写真を産科医の方にお見せしたところ、琴子の足の形からして、助産師が相当焦って引っ張ったのが分かると言われました。
片足が伸びている感じがあるんです(素人の私でも足の様子がおかしいことは気が付いていました)。
この話を日本助産師会に出向いた際にしたところ、同席してた一人の助産師(助産師の教育をしたりしている立場の方)も
「そうなんですよ、逆子の方が簡単なんですよ」
って仰ったんです。
でもそれを急いで打ち消すかのように、当時の事務局長(助産師)が
「否、助産院で扱ってはいけないんです」
と何度か仰っていました。
自然分娩が可か不可かはマンパワーの問題もあるとおもいますが、何故か私が面と向かって話した助産師の方の中には
『逆子の方が簡単だ』
という認識の方が上記の通りに居て、その根拠がどこにあるのかが疑問です。
suzanさんのご意見を読む限り、『逆子の方が簡単だ』とはおもえないのですが…

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上記の通り、逆子の方が簡単だと少なくとも二人の助産師、それも一人は日本助産師会から表彰され、NHKでは神の手と紹介(そのときのお産も逆子の分娩だったと助産師が言っていました)されていて、もう一人は日本助産師会の名刺を持ち、助産師の教育者としての上の方の立場(当時)の方です。
個人的な意見に過ぎないといえるかもしれませんが、その個人のそれぞれの立場や影響力は個人的では済まされないようにおもいます。
また、助産師会がその後に出したガイドラインで逆子の分娩を扱わないと明記することに対して、反論があって意見の対立があったことが感じ取れると私の弁護士さんが指摘されていましたから、逆子(骨盤位)に対しては『私ならやれるのに』という悔しさを抱いたままの開業助産師は少なくないのではないでしょうか。
そういう意識は、もしかしたらsuzanさんや、後に紹介させて頂くふぃっしゅさんのご意見にもあるように、少し前までなら出来ていたことが出来なくなったということ、技術の伝承が惜しまれるという点と重なるのかもしれませんが、産科医不足の問題をおもえば、また、無理することで一番危険にさらされるのが赤ちゃんだということを考えれば、答えはひとつになることじゃないかと感じます。
但し、助産師の方の主張する逆子の扱いへの技術伝承は、経験者の私としては非常に危険な行為、思想だとおもいます。

基、上記の私の意見に対して、suzanさんからのご意見です。

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「逆子のほうが簡単」と言う助産師は、複数いるんですね…
いや、どう考えても、どっちが簡単とかいう問題ではないと思います。
何をさして簡単というのだろう。
できたら詳しく聞いてみたいような気持です。

それから私、前の記述で「足を引っ張る」と書いてしまいましたが
足のつけね、というか、太ももからおしりにかけてをつかむ、と書くべきでした。
下からの逆子お産は、「おしり」が見えているのが「正しい」状態です。
それ以外のものが見えたら帝王切開に切り替えます。

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多分、私が知る以上に、『逆子の方が簡単』とおもっている助産師はいるのだろうとおもいます。
VBACだって扱っちゃっていたところはありますから…(H助産師と、以前に当ブログで紹介した記事の助産院※現況は把握していません)
これらの問題に対し、もっと“こんなことさせちゃっていましたけど、実に大きな問題である、危険な行為なんです”と公にして欲しいもんです。
昔は出来ていたというのは正しい表現ではないですよね、昔は逆子は病院がないからそのままそこで産むしかなかったというだけだったんです。
VBACは論外ですよね、これは医療(帝王切開)があってからのことですから。

いつも率直なご意見くださるひぃたんさんが、市の母親学級で聞いたというお話です。

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逆子の経膣分娩についてですが、市の母親学級で
「尻とか足とかを引っ張ればいいように見えるけど、頭が引っかかるから、尻が出たとか足が出たとかで引っ張っちゃいけないんだ。そこが逆子の難しいところなんだわ」
と、おじいちゃん先生が言っていました。もっとも、このおじいちゃん先生は
帝王切開、昔は水杯きってやってたんだぞ!」
とも、仰っていたくらいなので、相当なお歳だったりするのですが・・・。

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“水杯きって”というのは、昔は開腹手術の際に家族と水杯で別れをして手術に望んでいたということを仰っているのですよね?(間違っていたら教えてください)

頭が引っ掛かる…琴子は顎だって助産師が言っていました。
顎ですよ、顎…それだって琴子は死んでしまったんです。
あんなに『逆子の方が簡単だ』、『足が出てきたら引っ張ればいいんだ』って簡単なことを今の医者は出来ないのだと言わんばかりだったのに…引っ張っちゃいけないっていう意見もあるなんて、今更ですけどショックです。

次はひぃたんさんより先に寄せられたふぃっしゅさんのご意見ですが、“妊娠中の運動”については別記事にさせて頂きます。
ふっしゅさん、勝手に項目を分ける非礼をお許しください!

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骨盤位の経膣分娩については、産科の先生方にもいろいろと考え方があると思います。ちなみにうちのクリニックでも3年ほど前までは経膣分娩を行っていましたが、現在は全員帝王切開です。
骨盤位分娩の怖さは、最後の最後に頭の部分がひっかかって娩出が遅れるところにあるように思います。小児科医のいないクリニックでは、赤ちゃんへのリスクが高いのです。
産科の先生方にしても、経過をみる助産師にしても、骨盤位分娩の経験の機会が少なくなることも問題であって、不安を感じる点でもありますが、ほそぼそながらでも経験を伝え、いつか産科医・小児科医の先生に余裕がでる時代がきたら経膣試験分娩を復活させてほしいものです。
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やはり頭が引っかかってしまうんですね。
顎が引っ掛かるは頭が引っ掛かると同じでしょうか。
後、今回は単でん位と足位ですが、腕から出てきたりとか、他にもあります。
腕から出てくると、昔は子供を諦めて、その腕から切り刻んで母体を優先したということです。
こういうことを語っていくことも大事だとおもいます。

私たちに一番大事なのは、骨盤位の経膣分娩の場合、一番危険に晒されるのは誰なのかを真っ先に考えることだとおもいます。

今回紹介させて頂いたsuzanさん、ひぃたんさん、ふぃっしゅさん、有難うございます。