1994年当時の話から−会陰切開、助産医について

当ブログ

と続きまして、その中で産科二次施設で働く助産師のりりあんさんからのご意見

いくら助産師が「匠の技」を持っていたとしても、オイルマッサージや、お香などでリラクセーションを図ったとしても、会陰裂傷や膣壁裂傷は起きると思います。出産年齢が高くなり産道の伸びも良くないことが多いので。全ての裂傷をクレンメだけですませることはできないし、縫合が必要になったからといって、嘱託医に頼むこともしにくいでしょう。ここがやっているというより、多くは昔から切開をやっていると「想像」します。

少し古い資料ですが、ネットで見つけました。1994年の調査で、「助産院の安全性を考える」というものがありました。少ないけれど切開を入れていると書かれています。

…多くは昔から切開をやっていると!? ということで、いまださんのお力もお借りしてりりあんさんの仰る資料を教えていただきました。りりあんさん、いまださん、有難うございます。

旭川医大の紀要、1994年に発表された論文『助産院の安全性を考える―1107人の調査結果から― 』松岡悦子氏著のダウンロードより、PDFファイルをご覧ください。
松岡氏についての略歴はいまださんからの情報をお借りします。

ちなみに、この著者の松岡先生は、医療人類学の方で、医療者とは異なる視点から
活動しておられるようです。
http://reproculture.web.fc2.com/profile.html

さて、早速『助産院の安全性を考える―1107人の調査結果から― 』を拝読し、資料15枚目、41ページに

次に会陰切開と会陰裂傷の割合を、初産・経産別にみたのが図22と図23である。初産の場合、助産院で切開されるのは5%だが、裂傷は43%に生じている。(中略)それに対して助産院では、仮に裂傷のなかった57%の人のうち5%が切開されていたとしても、52%の人は無傷で分娩を終了したことになる(図22)。

とありました。1994年の頃の医療法がどうなっていたのかなどは今まだわかっていませんので、これは後になりますが、この前にも同資料13枚目39ページには

助産院では促進剤を使用したと回答したのは1067人中33人であるが(3%)、薬物名を書かずにただ「薬物の使用あり」と回答した人もいるので、実際には促進剤を使用した割合はもう少し大きくなるかもしれない。

と、促進剤の使用も当時は当たり前にしてあったようです。ここら辺は以前に当ブログで

  1. 助産院での会陰切開と吸引…?
  2. 助産院での会陰切開と吸引…? 其の弐

とあった齊藤助産師の言っていた「これを書いたのは、7年前のことなので、状況が変わってきていますね。当時は吸引をかけている助産院も事実ありましたが、今は助産師会から禁止されていますので。」に当てはまることでしょうか、2007年に齊藤助産師が「7年前に書いた記事」でしたから、2000年の頃に齊藤助産師が「会陰切開を助産師も出来るのに」とご自身で書いていたのがきっかけでしたので、やはり投薬も切開も、そして吸引もされていたのですね。縫合については特に記述無しです。

今回出された「女性学年報 第31号」の特集記事【産婆の主張にみる「異常」の提示と権威の志向】(木村尚子氏著)の中にも「(1)産師法制定請求運動の意味」として、関連する記事がありました。こちらには縫合についてもありました。

また、別の雑誌に投稿した「開業して、未だ日も浅」いある産婆は、会陰破裂時の縫合は、「産婆に許されていゝ、否むしろ付随した所の技術だ」と述べ、同じく「大出血した場合の止血の注射」も許可して欲しい、そのために産婆は「助産医といふ名称まで名実共にレベルを高めなければならない」と訴える(FK1928、39-40頁)。これを受けて同号の編集後記には、これらの行為は「お医者さんから見れば余りに医師の領分に喰ひ入るとかいふかも知れぬが、産屋から見ればごく簡単に済むことだし」、経済的にも「有りがたい」とある。しかし産婆が業務の拡張を実現できるか否かは、「産婆自身の修養次第」であり、将来は「助産に関しては母体は勿論小児科の或る部分までも助産医の責任といふ位にまで、向上して貰いたい」と期待を述べる(「編集余滴」1928、44頁)。

助産医という言葉があるよと産科医の方から教えていただいてからまだそんなに日は経っておらず(今年に入ってからのことです)、でもその前から助産師は会陰切開も出来るのにという話はあり、私は帝王切開まで本当なら出来る(勉強すれば出来るという意味で、正は“したい”ということでしょう)とも聞いていたので、すぐに「本気だ!」とはおもいました。しかし、これほど歴史の長いことだったとはおもいませんでした。

尚、これは嘱託医が産科医に限定されるという頃に出された文章だと思うのですが、
NPO法人「お産サポートJAPAN」助産所と自宅における出産の安全性の確保と支援に関する請願書というのがあり、その中に

2.助産師の業務について 
現在、自宅や助産所における出産の異常時や緊急時のバックアップは、大変心もとない状況です。これを解決する方法のひとつとして、搬送するまでに、助産師がある程度の処置を行える必要があります。しかし、現在の法律では、緊急時にできる医療行為について、具体的な内容を明文化したものはありません。海外の助産師は、平素から会陰切開や縫合等、あるいは必要な薬剤の使用が可能であり、加えて緊急処置などもできるようになっています。母児の命を守るためには、日本の助産師にもこれらの業務ができるようにすることが必要不可欠です。

と、産む側からも助産師が会陰切開や縫合をするように、また必要なとしながらも副作用などの問題を抱える薬剤の扱いまでも可能にして欲しいと、それも平素からとして、加えて緊急処置…残るは吸引、鉗子分娩? う〜ん、産む側までもがこんなことを言ってしまっていたんですね。
更に

1) 日本の助産師の業務拡大は産科医師の過重労働の負担を軽くします。
日本の助産師はそれらの業務ができないために、正常出産でも産婦人科医の立ち会いを余儀なくされていますが、これらができるようになれば、正常分娩は助産師に任せることができ、産婦人科医不足の解決の一助にもなると考えます。助産師の業務を拡大し、正常出産での産婦人科医立ち会いがなくてもすむようにすることで、産婦人科医を過重労働から救うことにもなると思います。少数で貴重な存在である産婦人科医には、産婦人科医にしかできない、本来の業務(帝王切開のような異常出産や婦人科)に専念していただきたいと思います。

となっていますが、助産師が助産医となること(私は想像ですらしたくない、断固反対)で、本気で産婦人科医不足の解決の一助になって過重労働から救えると…“少数で貴重な存在である産婦人科医”とされていますが、その産婦人科医の皆様と一緒に協働しようとはおもってくれないのでしょうか。どうして病院での出産には協力してくれないのでしょうか。私はそれこそが、切実に求められる助産師の在り方ではないのかと感じていますが、どうして助産院や自宅出産でないといけないのでしょうか。これは嘱託医についての請願書ですから、勤務助産師ではなく、開業助産師のためのものです。このような方達が求める助産師の業務拡大とは、当然、助産院や自宅出産でされることを想定してのこととなりますから、大問題だとおもえてなりません。

今回の、特に「女性学年報」の方はもっと気になる内容がありますので、後日また改めます。

※12/1 18:57現在、投稿時に著者名に誤りがありましたので、内容を一部修正しました、失礼しました。